12の美しい芸術作品で知る、ポーランドの12ヶ月
ポーランド人が祝う、伝統的な年中行事とは?キリスト教や異教、世俗の行事、またその他、ポーランドの暦に組み入れられ、独特な美しい文化を創り出してきたさまざまな伝統行事を、ポーランドの有名な画家たちがどのように観察し、描写してきたか、12ヶ月を通じて見てみよう。
Picture display
standardowy [760 px]
ミハウ・エルヴィロ・アンドリオッリ《新年の聖歌隊(Kolędnicy noworoczni)》、ズィグムント・グロッゲル(Zygmunt Glogger)『Rok Polski w życiu, tradycyi i pieśni(生活、伝統と歌に見るポーランドの1年)』の挿絵より、1900年、写真:国立ポローナ・ライブラリー
新年を迎えるにあたり、コウノトリやクマ、ヤギ、はてはもっとも恐ろしい怪物であるトゥロン(Turoń――ポーランド民俗行事の、獅子舞の獅子に似た怪物。毛むくじゃらで黒い角を持ち、顎をぱくぱくさせるのが特徴。クリスマス後、特にカーニバルや四旬節の時期に登場。ヨーロッパ・バイソンを意味するturが語源)に扮装して、家から家へとさまよい訪ねるよりも良い方法があるだろうか?これはもともと、クリスマスの時期を祝い、新年の始めまで続く、古代スラヴの伝統行事「コレンドヴァニェ(kolędowanie;聖歌隊の訪問)」の一部。この訪問では、聖歌を合唱し、来たる新年におけるその家庭の繁栄を祈る代わりに、ミハウ・エルヴィロ・アンドリオッリ(Michał Elwiro Andriolli;1836-1893)の挿絵にあるように、いくらかの食べ物や、少額のお金をを受け取ったという。
Picture display
standardowy [760 px]
アルフレト・ヴィェルシュ=コヴァルスキ(Alfred Wierusz-Kowalski)《クーリク――リトアニアのサンナ(Litewska sanna)》1883年、写真:www.agraart.pl
カーニバルはポーランドではザプスティ(zapusty)としても知られ、東方の三博士がベツレヘムで誕生したイエス・キリストを訪れたとされる顕現日(クリスマスから12日目、つまり1月6日)から、灰の水曜日(40日間、荒野をさまよったキリストを記念して節制や懺悔を行う、四旬節の始まる日。懺悔の象徴として、頭に灰をふりかけたことからこう呼ばれる)まで続くのが伝統。この陽気で楽しい時期はお祭り騒ぎや舞踏会が特徴だが、もっとも美しく、いわば絵になる行事のひとつが、クーリク(kulig)またはサンナ(sanna)として知られるそり遊びだ。
伝統的なクーリクは通常、カーニバルの最後の週に行われ、ポーランド士族(シュラフタ)が好む遊びだった。馬が引く大型や小型のそりの列が、士族の屋敷から屋敷へと駆け回り、たき火の周りでの音楽や歌がそれに伴った。その昔、今より積雪の多い時代には、クーリクの移動型パーティは1週間かそれ以上もの間、続いたという。クーリクとそり遊びは、ポーランド絵画が好んで取り上げるテーマのひとつだ。
Picture display
standardowy [760 px]
ポーランドのカレンダーの「春」の絵図、Culture.pl作のコラージュ、写真:Polona.pl
伝統的に、ということは気象学上、春は3月のどこかで始まる。上の図にあるように、3月は、ポーランド人が愛するコウノトリが、あたたかい地域で冬を過ごした後、ポーランドにやってくる時。人々も、冬を越した自分たちの農作物の世話をしようと畑仕事に戻っていく。この先には、キリスト教の行事も待ち構えている。
Picture display
standardowy [760 px]
ヴウォジミェシュ・テトマイェル《ブロノヴィツェでの祝福(Święcone w Bronowicach)》1897年、写真:クラクフ国立美術館
カーニバル後の四旬節は、ヴィェルカノツ(Wielkanoc)つまり復活祭(イースター)へと続く。ポーランドの伝統では、このお祝いは、イエス・キリストの復活を告げる聖なる行進と、着色され、模様などで綺麗に飾られた卵(ピサンキ pisanki)を詰め、日曜日の朝に司祭に祝福してもらうバスケット(シフィェンツォンカ święconka)が欠かせない復活祭の朝食、そして復活祭の「棕櫚(しゅろ)」(復活の1週間前の日曜日、イエスのエルサレム入城を記念して作られる枝の飾り。ポーランドではヤナギの枝やアシ、ツゲ、色とりどりの生花・造花等が用いられる)を意味していた。もちろん、復活祭の月曜日には、悪名高い「シミグス・ディングス Śmigus Dyngus」(この日に少年が自分の好きな少女に水をかける風習)がある。ヴウォジミェシュ・テトマイェル(Włodzimierz Przerwa-Tetmajer;1861-1923)はクラクフすぐ近くの村、ブロノヴィツェ(Bronowice)での復活祭の祝福を、彼のイメージで描き出している。
Picture display
standardowy [760 px]
M.E. アンドリオッリ《ビェラヌィ(Bielany)》、緑の祝祭の絵図、写真:Polona.pl
ジェロネ・シフィョントキ(Zielone Świątki)――緑の祝祭――は、おそらく異教の起源を持つ古代の祭りで、5月か6月に祝われる。人々が自然界の力を称える春の儀式の一種で、たき火をしてその年の豊作を願い、緑の枝や花々で家を飾りつける習わしがあった。時代がくだると(19世紀)、事前に種まきをした畑のあたりを、キリスト教者たちが行列をつくって練り歩き、宗教歌を歌い、神聖な絵画が次々に披露された。街に住む人々は郊外(図にあるように、ワルシャワの住民は、街の北に接していたビェラヌィ(Bielany;現在のワルシャワ・ビェラヌィ地区)によく出かけた)への小旅行を楽しんだ。現代のポーランドでは、緑の祝祭は、聖霊降臨祭の日曜日(ペンテコステ。イエスの復活後50日後、集まって祈っていた信徒たちに聖霊が降臨したことを記念する祝日)とともに祝われている。
Picture display
standardowy [760 px]
フェルディナント・ルシュチツ《ソブトゥキ(Sobótki)》1898年、カンヴァスに油彩、72×92.5 cm、写真:チェンストホヴァ美術館、チェンストホヴァ
「ソブトゥカ(Sobótka)」または「クパワの夜(Noc Kupały)」は古代スラヴの祝祭。一年でもっとも短い夜(イギリスでは夏至、ポーランドではのちに、6月23日から24日にかけての聖ヨハネの前夜祭、つまり洗礼者ヨハネの誕生日の前夜祭と習合)を祝う神秘的な儀式で、占いをしたり、かがり火をたき、その上を飛びこえたりする夕べでもあった。若者らが伝説上の(この夜のみに咲くという)シダの花を探し、少女たちは花輪を作り(しばしば火を灯したろうそくとともに)川に浮かべたという。ただ、フェルディナント・ルシュチツ(Ferdynand Ruszczyc;1870-1936)の絵から何もわからないように、この夜の祭りの間、実際に何が起こったかは、誰も知らない。
Picture display
standardowy [760 px]
アレクサンデル・コツィス《葬儀と婚礼(Pogrzeb i wesele)》1864年、ワルシャワ国立美術館
ポーランドの暦で、結婚式をあげるのにベストの時期はあるのだろうか?もちろん、恋に落ち、結婚するのはいつでもよい。ポーランドの伝統的な婚礼には、古い通過儀礼を彷彿とさせるさまざまな手順があり、複雑で、賑やかな儀式だ。アレクサンデル・コツィス(Aleksander Kotsis;1836-1877)は、新婚の夫婦をあえて葬列(右側の隅に棺桶がある)と一緒に描き、日常生活を、ポーランドの歴史的な武装蜂起の伝統(棺桶にポーランドを象徴する白い鷲が描かれ、愛国戦士がかぶる赤い「連盟帽」が載せられている)と象徴的に結びつけようとした。
Picture display
standardowy [760 px]
ミハウ・スタホヴィチ《ドジンキ(Dożynki)》1821年、写真:ワルシャワ国立美術館
伝統的な収穫祭であるドジンキ(Dożynki)は、今日ではたいてい、ポーランドで収穫期が終わる9月初めの日曜日に祝われる。農民たちは村の外の畑に集い(ミハウ・スタホヴィチ Michał Stachowicz;1768-1825)の絵からわかるように、領主の館の前でも行われた)、行列をつくり、近くの畑から刈り取った作物の最後の束を持ち帰った。花輪は豊作の象徴。
Picture display
standardowy [760 px]
アレクサンデル・ギェルィムスキ《角笛の祭り その1(Święto trąbek I)》カンヴァスに油彩、47×64.5 cm、写真:ワルシャワ国立美術館
歴史的に、ポーランド社会は多様な文化から構成され、さまざまな民族や伝統が溶け合う、いわば文化のるつぼだった。アレクサンデル・ギェルィムスキ(Aleksander Gierymski;1850-1901)がここに描き出しているのは、何世紀にもわたって大きなユダヤ人コミュニティを擁してきた街、ワルシャワのヴィスワ川のほとりで、ユダヤ教徒たちがロシュ・ハシャナー(Rosz ha-Szana)(ユダヤ教の新年。ポーランドでは角笛の祭りとも言われる)を祝う様子だ。
Picture display
standardowy [760 px]
『パン・タデウシュ』第3の書、フランチシェク・コスチェフスキによるキノコ狩りの場面への挿絵、1860年、写真:Wikimedia Commons
キノコ狩りはポーランドで根強い、純粋に世俗的な伝統行事。今日のポーランド人も晩夏から晩秋にかけ、1番大きく、1番美味しいキノコを探し求めようと、果敢に森へと足を踏み入れる。手に入れたキノコは、もちろん調理し、食べる。フランチシェク・コスチェフスキ(Franciszek Kostrzewski;1826-1911)の絵はアダム・ミツキェヴィチ(Adam Mickiewicz;1798-1855)『パン・タデウシュ(Pan Tadeusz)』の挿絵。この国民的叙事詩では狩猟など、他のポーランドの伝統的な行事とともに、キノコ狩りも描かれている。
Picture display
standardowy [760 px]
ヴィトルト・プルシュコフスキ《霊たちの時間(Godzina duchów)》写真:Wikimedia Commons
11月1日の諸聖人の日は(その翌日の死者の日とともに)、おそらくポーランドの暦の中で、もっとも陰鬱な日かもしれない。この日、ポーランドの墓地は、人々が死者の魂のために祈ろうと、墓を訪れて供えるキャンドルで、ぼうっと鈍い光で輝く。もし運がよければ、幽霊――ヴィトルト・プルシュコフスキ(Witold Pruszkowski;1846-1896)の絵に描かれているような、かわいそうな、迷える魂――に出くわすこともあるだろう。
Picture display
standardowy [760 px]
ルドヴィク・スタシャク《ベツレヘムにて(W Betlejem)》写真:Raczyński Foundation / ポズナン国立美術館
ルドヴィク・スタシャク(Ludwik Stasiak;1858-1924)のこの絵は、赤子イエスの飼い葉桶のまわりに集う羊飼いを描いている。クリスマス・イヴの夜も更ける頃、ポーランドの人々は、国中の教会で真夜中に行われるパステルカ(pasterka)つまり羊飼いのミサに出かけ、クリスマス聖歌を歌う。ポーランドには今日まで受け継がれ、人気を保ってきた多くのクリスマスの伝統があり、これらは1年を終えるのにふさわしいお祝いだ。
Author: Mikołaj Gliński, 29 Dec 2017
執筆:ミコワイ・グリンスキ(Mikołaj Gliński)、2017年12月29日
日本語訳:柴田恭子(Yasuko Shibata)、2024年4月
[{"nid":"36490","uuid":"23b6aadf-f332-484c-ab70-401aac4b32bd","type":"article","langcode":"ja","field_event_date":"","title":"\u30dd\u30fc\u30e9\u30f3\u30c9\u306e\u4f1d\u7d71\u6599\u7406\u300c\u30d4\u30a8\u30ed\u30ae\u300d","field_introduction":"\u30d4\u30a8\u30ed\u30ae\u306f\u4e16\u754c\u3067\u6700\u3082\u6709\u540d\u306a\u30dd\u30fc\u30e9\u30f3\u30c9\u6599\u7406\u3002\u5b9f\u306f\u300c\u30d4\u30a8\u30ed\u30ae\u300d[pierogi] \u3068\u3044\u3046\u306e\u306f\u8907\u6570\u5f62\u3067\u3001\u5358\u6570\u5f62\u306f\u300c\u30d4\u30a8\u30eb\u30af\u300d[pier\u00f3g] \u3068\u3044\u3046\u3002\u5c0f\u9ea6\u7c89\u306a\u3069\u3067\u3067\u304d\u305f\u751f\u5730\u3067\u3001\u8089\u3084\u91ce\u83dc\u3001\u30c1\u30fc\u30ba\u306a\u3069\u306e\u5177\u6750\u3092\u9903\u5b50\u72b6\u306b\u5305\u3093\u3067\u8339\u3067\u308b\u306e\u304c\u57fa\u672c\u306e\u30d4\u30a8\u30ed\u30ae\u3002\u5c11\u3057\u539a\u3081\u306e\u76ae\u3067\u3067\u304d\u305f\uff08\u30b9\u30fc\u30d7\u306e\u5165\u3063\u3066\u3044\u306a\u3044\uff09\u5c0f\u7c60\u5305\u306e\u3088\u3046\u306a\u5473\u308f\u3044\u3068\u98df\u611f\u3067\u3001\u521d\u3081\u3066\u98df\u3079\u308b\u4eba\u3067\u3082\u61d0\u304b\u3057\u304f\u611f\u3058\u3089\u308c\u308b\u5473\u3060\u3002\r\n","field_summary":"\u30d4\u30a8\u30ed\u30ae\u306f\u4e16\u754c\u3067\u6700\u3082\u6709\u540d\u306a\u30dd\u30fc\u30e9\u30f3\u30c9\u6599\u7406\u3002\u5b9f\u306f\u300c\u30d4\u30a8\u30ed\u30ae\u300d[pierogi] \u3068\u3044\u3046\u306e\u306f\u8907\u6570\u5f62\u3067\u3001\u5358\u6570\u5f62\u306f\u300c\u30d4\u30a8\u30eb\u30af\u300d[pier\u00f3g] \u3068\u3044\u3046\u3002\u5c0f\u9ea6\u7c89\u306a\u3069\u3067\u3067\u304d\u305f\u751f\u5730\u3067\u3001\u8089\u3084\u91ce\u83dc\u3001\u30c1\u30fc\u30ba\u306a\u3069\u306e\u5177\u6750\u3092\u9903\u5b50\u72b6\u306b\u5305\u3093\u3067\u8339\u3067\u308b\u306e\u304c\u57fa\u672c\u306e\u30d4\u30a8\u30ed\u30ae\u3002\u5c11\u3057\u539a\u3081\u306e\u76ae\u3067\u3067\u304d\u305f\uff08\u30b9\u30fc\u30d7\u306e\u5165\u3063\u3066\u3044\u306a\u3044\uff09\u5c0f\u7c60\u5305\u306e\u3088\u3046\u306a\u5473\u308f\u3044\u3068\u98df\u611f\u3067\u3001\u521d\u3081\u3066\u98df\u3079\u308b\u4eba\u3067\u3082\u61d0\u304b\u3057\u304f\u611f\u3058\u3089\u308c\u308b\u5473\u3060\u3002","topics_data":"a:3:{i:0;a:3:{s:3:\u0022tid\u0022;s:5:\u002259620\u0022;s:4:\u0022name\u0022;s:22:\u0022#\u30dd\u30fc\u30e9\u30f3\u30c9\u6599\u7406\u0022;s:4:\u0022path\u0022;a:2:{s:5:\u0022alias\u0022;s:21:\u0022\/topics\/horantoliaoli\u0022;s:8:\u0022langcode\u0022;s:2:\u0022ja\u0022;}}i:1;a:3:{s:3:\u0022tid\u0022;s:5:\u002259644\u0022;s:4:\u0022name\u0022;s:8:\u0022#culture\u0022;s:4:\u0022path\u0022;a:2:{s:5:\u0022alias\u0022;s:20:\u0022\/taxonomy\/term\/59644\u0022;s:8:\u0022langcode\u0022;s:2:\u0022ja\u0022;}}i:2;a:3:{s:3:\u0022tid\u0022;s:5:\u002259614\u0022;s:4:\u0022name\u0022;s:5:\u0022#asia\u0022;s:4:\u0022path\u0022;a:2:{s:5:\u0022alias\u0022;s:11:\u0022\/topic\/asia\u0022;s:8:\u0022langcode\u0022;s:2:\u0022ja\u0022;}}}","field_cover_display":"default","image_title":"","image_alt":"","image_360_auto":"\/sites\/default\/files\/styles\/360_auto\/public\/images\/imported\/KUCHNIA\/Pierogi\/pierogi_ze_skwarami_east_news.jpg?itok=bUeSnsq3","image_260_auto":"\/sites\/default\/files\/styles\/260_auto_cover\/public\/images\/imported\/KUCHNIA\/Pierogi\/pierogi_ze_skwarami_east_news.jpg?itok=fIZH0KYg","image_560_auto":"\/sites\/default\/files\/styles\/560_auto\/public\/images\/imported\/KUCHNIA\/Pierogi\/pierogi_ze_skwarami_east_news.jpg?itok=NtWFHyEH","image_860_auto":"\/sites\/default\/files\/styles\/860_auto\/public\/images\/imported\/KUCHNIA\/Pierogi\/pierogi_ze_skwarami_east_news.jpg?itok=8dTEMnkf","image_1160_auto":"\/sites\/default\/files\/styles\/1160_auto\/public\/images\/imported\/KUCHNIA\/Pierogi\/pierogi_ze_skwarami_east_news.jpg?itok=4TAaCe8c","field_video_media":"","field_media_video_file":"","field_media_video_embed":"","field_gallery_pictures":"","field_duration":"","cover_height":"920","cover_width":"1000","cover_ratio_percent":"92","path":"ja\/node\/36490","path_node":"\/ja\/node\/36490"}]