ポーランドのうま味あふれるクリスマス料理【インタビュー】
文化外交エキスパート、食文化の本の著者であるマグダレナ・トマシェフスカ=ボラウェクが、ポーランドのクリスマスのテーブルに欠かせない鯉、バルシュチュ、ウシュカ、そして日本とは全く関係ない「ニシンの日本風」の謎について語る。
アグニェシュカ・ヴイチンスカ(Agnieszka Wójcińska):
日本を含めた東アジアの人々の口に合うポーランドのクリスマス料理といったら、どれでしょうか?
マグダ・トマシェフスカ=ボラウェク(Magda Tomaszewska-Bolałek):
マグダレナ・トマシェフスカ=ボラウェク。 写真. Marta Pańczyk
ポーランド料理には様々な味がありますが、アジアの国々で非常に好まれる「うま味(umami)」もしっかり存在し、肉、魚、発酵食品、燻製食品に含まれています。多くのクリスマス料理の中にも「うま味」があります。そのため、ポーランドのクリスマス料理には、日本人の口に合うものがたくさんあると思います。ビーツで作る真紅の「バルシュチュ(barszcz)」、香り高いキノコのスープ(zupa grzybowa)、また燻製のプラム、りんご、洋梨などを煮て作る飲み物、「コンポット(kompot)」などが挙げられます。
マグダさんはどの料理が1番好きですか?また、その理由は何でしょうか。
「クルスキのケシの実和え(kluski z makiem)」が大好きです。この甘い料理には、長い歴史があります。今のポーランドで「クルスキ」という言葉を聞くと、ペンネやフジッリ等、イタリアのショートパスタを思い浮かべることが多くなっていますが、伝統的に、ケシの実で和えるクルスキはだいたい「ワザネク(łazanek)」(平たい、小さな四角に切られたパスタ)の形をしています。これは今も東部国境地(Kresy Wschodnie)で見られるスラヴ文化に深く根ざした料理、「クティア(kutia)」に由来するものです。小麦、ケシの実(mak)と蜂蜜から作られる料理で、現在はナッツ、レーズンやその他の干した果物も加えられています。
クティアはかつて、クリスマスに登場しただけでなく、葬儀とも結びついていました。材料の一つであるケシの実が、陶酔作用のある性質から、生者の世界と死者の世界をつなぐものとされていたからです。富と豊穣の象徴でもあったところから、クリスマス・イヴには、クティアは占いにも用いられていました。晩餐を始める前、家の主人がクティアをスプーンに盛り、天井にくっつくよう上へと高く放り、もしたくさんの粒が天井から離れなかったら来たる年は素晴らしい豊作、もしあまりつかず、すぐ落ちてしまった場合は、旱魃・不作の年になるとされました。クリスマス・イヴの後に残ったクティアはその他の残ったご馳走と一緒にされ、動物の餌にしたり畑に撒いたりして、家の繁栄と豊作を祈願しました。
「クティア」。 fot. Krzysztof Kuczyk/Forum
ポーランドではクリスマスは特別なひと時です。家族と一緒に過ごし、伝統的な料理を用意します。クリスマスと似ている日本の祝日は、いつでしょうか?
クリスマスに最も近い日本の行事はお正月のお祝いです。家族で集まり、皆でご馳走を囲む時です。幸福、経済的な成功や、健康をもたらすとされる料理を食べます。ポーランドで、クリスマス・イヴの晩餐が、この時期のお祝いの始まりであるのとよく似ています。どちらの国でも食卓に料理が適当に出されるわけでなく、一つ一つの食材に全て意味があり、幸せ、成功、健康と豊かさへの願いがこめられています。
ポーランドでは、クリスマス・イヴに何種類の料理を準備しますか?
多くの人が、12種類の料理が必要だと言います。1年の12ヶ月、またはイエス・キリストの使徒の数を象徴するからです。歴史的には、クリスマス・イヴの食卓に並ぶ料理の数はその家の豊かさによって決まりました。民俗学者によれば、19世紀末と20世紀初頭には5種類、または7種だったり9種だったりもしたと言います。貧しい家では一つの食材を1種類とみなして数えました。地方によっては晩餐の後、先祖の霊に食べてもらえるよう、ご馳走をテーブルに残す風習もあります。これはスラヴの伝統の名残です。クリスマスはかつて「Szczodre Gody(シュチョドゥレ・ゴディ)」〔直訳は「豊かな時」。キリスト教に改宗される以前、冬至の時期に太陽の帰還を願って行われたスラヴの儀礼〕の祝いの時期にあたり、宴会の後、食べ物を先祖に残しておくことになっていました。これは空っぽのお皿を置くという、現在に伝わるもう一つの風習にも関係があります。ポーランド人は今もクリスマス・イヴの食卓に、空のお皿を一枚置いておきます。もっともこれは今では、見知らぬ旅人が来て、自分の家のドアを叩いた時に歓迎するためで、もてなしの心を表すものとされています。
ポーランドのクリスマスの食卓に並ぶ料理には、どれも象徴的な意味があります。どのような意味でしょうか?
多くの料理の意味はスラヴ文化に由来します。「シュチョドゥレ・ゴディ」の時期の食卓には、まず、畑で採れる食材を並べる必要があると考えられていました。小麦粉、ケシの実や穀物を使った料理が出されるのはこのためです。2つ目のカテゴリーは果樹園で育つもので、干した果物がこれにあたります。3つ目が森の恵みであるキノコやナッツ、またジュニパーベリー(杜松果)などのスパイス。そして4つ目は水から獲れるもの、つまり魚です。
クルスキやクティア、「マコヴィエツ(makowiec)」〔イースト生地に甘いケシの実ペーストやナッツ・ドライフルーツのフィリングを巻きこんで焼く、シュトゥルーデル状のケーキ〕に使われるケシの実については、さきほどちょっとお話しました。クティアなどに用いられるナッツは健康を象徴するもので、コンポット用の干しリンゴは、死、再生と愛を表します。パンやお菓子の材料となる穀物は、生命を象徴しています。クティアに加える蜂蜜はスラヴ文化では非常に重要で、その色が金を連想させるところから、富を表していました。これらの材料から作られる食事には、繁栄、また次の年の再会を願う意味があります。
クリスマス・イヴの料理で最も重要なものはどれでしょうか?また、それはなぜですか。
ポーランドの各地域で、エンドウ豆とキャベツの料理に様々なバリエーションが見られます。餃子によく似た料理である「ピエロギ(pierogi)」や、「ウシュカ(uszka)」〔直訳は「小さな耳」〕と呼ばれるイタリアのトルテッリーニに似た小さなダンプリングにも、地域によってキャベツ、キノコ、じゃがいも、キビやソバの実など、様々な具が用いられています。これが1番重要という、ただ一つの料理はなく、クリスマス・イヴの食卓に何が並ぶかは、その人の出身地域によって異なります。クリスマス・イヴにポーランド中北部のマゾフシェ(Mazowsze)地方で出される料理と、南部のシロンスク(Śląsk)地方で出される料理は異なり、北東部のポドラシェ(Podlasie)地方、南東部のポトカルパチェ(Podkarpacie)地方でも違う料理が振る舞われます。
「ウシュカ」 。写真: Katarzyna Klich / East News
クティアはポーランドの東部では人気がありますが、南部のシロンスク地方では、聞いたことがないという人もたくさんいます。シロンスクではクルスキのケシの実和えや、ロールパンをミルクに浸してケシの実、バター、ドライフルーツやナッツを用いて作る「マクフキ(makówki)」という料理を食べるからです。地域ごとの伝統に従い、この日にはビーツで作る赤バルシュチュ、ライ麦発酵液で作った白バルシュチュ、またはバルシュチュにサワークリームを加えたものが登場します。地域によってはキノコのスープの種類をいくつか用意したり、干した果物のスープを出したりします。シロンスク地方では「シェミェニョトカ(siemieniotka)」と呼ばれるスープが人気です。これは麻の実(アマニ)をゆでてつぶし、ピュレ状にしたスープで、玉ねぎで風味をつけ、雑穀か米と一緒に供されます。
デザートも様々です。前述のマコヴィエツや、ポーランドのジンジャーブレッドである「ピェルニク(piernik)」、生地を2週間以上寝かせてから焼き上げる本格的な「熟成ピェルニク(piernik dojrzewający)」などがあります。ポーランドで最初にピェルニクについての記録が登場したのは1293年で、下シロンスク地方の街、シフィドニツァ(Świdnica)に関するものです。実は今年、ポーランド国内の無形文化遺産リストに「Kultura Toruńskiego Piernika(トルン風ピェルニクの文化)」が登録されました。地域特有のものもあり、南西部のオポレ(Opole)地方では「シリシュキ(śliżki)」と呼ばれる、ケシの実をフィリングにしたイースト生地のパンも食べられています。シロンスクの「モチュカ(moczka)」は、ピェルニクとドライフルーツ・ナッツを黒ビールやコンポットに浸して作る、イギリスのプディングを思わせる料理です。
ポーランドのクリスマス料理は日本でも作ることができますか?
全てというわけにはいかないでしょう。日本でも、他のアジアの国々の商店でも、ケシの実の販売が禁止されているため、ケシの実が入っている料理を用意するのは難しいと思います。アジアからやってくる多くの人々が、ポーランド滞在中に興味津々で、マコヴィエツやケシの実入りの菓子パンを味わうのはそのためです。バルシュチュも、日本で作るのは困難です。ビーツは日本では高価な食材ですし、ライ麦を発酵させた液で作るスープは、ポーランドと細菌叢や水質が異なるため、味が変わってくると思います。一方、ポーランド語では「ボロヴィク(borowik)」と呼ばれるポルチーニは入手できるので、キノコのスープは問題なく作れるでしょう。鯉の料理を作ることも可能です。
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鯉のソテー。写真: Marcin Klaban/AW
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ポーランド人にとって、これがないクリスマスのディナーは想像できない魚ですね。
鯉をクリスマスに食べるのは社会主義時代に広まったと考える人が多いですが、この風習には数百年の伝統があります。キリスト教、そして修道院の文化と結びついていました。かつて修道院の周りでは畑が耕され、鯉を育てる池もあって、肉食を避ける節制の時期には鯉がよく供されていました。節制の時期はたくさんあったので、魚が好んで食べられるようになったわけです。実際、何世紀にもわたり、ポーランド風の魚の調理法はヨーロッパ全土で高い評判を得ていました。クリスマス・イヴにはゼリー寄せにした「鯉のユダヤ風(karp po żydowsku)」等、甘味の強い料理や、スープにもされました。もっとも、1番よく食卓に登場するのは 鯉の揚げ焼きです。この形の鯉料理は、日本でも問題なく作ることができるでしょう。
ポーランドの魚の王とも言える鯉について語ったので、王子的な存在であるニシンについても触れるべきですね。ニシンはクリスマスと強い結びつきがあり、ポーランド語でニシンを表す単語である「śledź(シレヂ)」の指小形「シレヂク(śledzik)」は、クリスマスやイースター等、ホリデーシーズンの会社の会合や友人の集まりを指す言葉にもなっています。
この魚はポーランドの食文化では古くから知られています。バルト海で獲れたニシンは生のまま塩漬けにされ、樽に詰められて、ポーランドの各地域に簡単に輸送できました。ニシンは、伝統的に肉を食べないポーランドのクリスマス・イヴに、うってつけの食材です。最も人気があるのは生の玉ねぎと一緒にオイル漬けにしたニシンですが、生りんごやクリームを加えて和えたもの、また酢でマリネしたニシンもあります。
社会主義時代に生まれたニシンのレシピは、日本人を驚かせるに違いありません。この「ニシンの日本風(śledź po japońsku)」は、日本とは全く関係のない料理です。生りんごを添え、サワークリームのソースやマヨネーズをかけて供します。黄色いハードチーズをおろして散らしてもよいですし、エンドウ豆を添えたり、甘酸っぱいきゅうりのピクルスやその他の野菜と和える人もいます。
このような考えと名前がどこから来たかというと、社会主義時代の背景がありました。当時のポーランドは生活が非常に困難で、多くの食材が不足していました。主婦たちは何とかして食卓を豊かにしようと、異国情緒あふれる名前を考え出し、自分たちの作る料理につけ始めたのです。日本ではニシンは食べられていますが、この料理に「日本風」という名前がついていることを知ったら、びっくりするのではないでしょうか。
なぜですか?
日本の食文化に乳製品が現れたのは近代になってからです。現在は商店で広く販売・消費されていますが、伝統的な日本人の食生活にクリーム類は存在しませんでした。牛の飼育もされていなかったため、近代以前には牛乳は手に入りませんでした。また、韓国人や中国人など、他の東アジアの人々もそうですが、日本人の間では遺伝子的に乳糖不耐症の割合が多くなっています。もう一つの理由はりんごです。ポーランドはりんごの国で、どこでも安く手に入りますが、日本や韓国ではりんごは比較的高価な果物で、一個ずつ買い求め、綺麗に包装して贈り物にしたりします。そのため、りんごを半分もニシン料理に使おうと考える人は、なかなかいないのではと想像しています。
クリスマス・イヴの食卓にはもう一つ、大切な食べ物が登場します。聖餅、「オプワテク(opłatek)」です。これはどのような意味があるものでしょうか?
オプワテクは、金属の天板の上で焼かれた薄いウエハースで、味はほとんどありません。ポーランドではクリスマス・イヴの晩餐を始める前、出席者がそれぞれ他の人のウエハースを端から少しずつ割り合い、お互いの幸せ、健康と繁栄を願う伝統があります。この風習はポーランドでは19世紀に広まりました。オプワテク自体は、フランク国王のカール大帝(シャルルマーニュ大帝, 747-814)によって、当時、異教の儀礼でパンが分かち合われていたのをやめさせるため、キリスト教の教会の儀礼に導入されたものです。
今、ポーランドのクリスマス・イヴのディナーはどんな感じでしょうか。絶対欠かせないものはありますか?
現代世界では、小さな地域ごとに見ても、統一された基準はないと思います。これにはグローバル化やSNSの普及と関連する、食のトレンドも影響しています。InstagramやTik-Tokの時代、東京やソウルで誰かが食べたケーキは、2-3日後にはポーランドやスペインで同じように作って食べることができます。インターネットで何百万というレシピが見つかるからです。ポーランドのクリスマス・イヴの食卓には、たとえばスシを始めとする、外国の料理も登場しています。グローバル化は料理の伝統を衰退させます。数十年後のポーランドでは、クリスマスにおばあちゃんがいつもスシを作ってくれたので、自分もピエロギやバルシュチュでなく、スシを用意する、ということもあり得るでしょう。
日本の読者に、ポーランドの伝統的なクリスマス料理の精神を感じるために、どの料理を勧めたいですか?
ニシンと玉ねぎのオイル漬けやニシンの酢漬けは簡単に作ることができます。鯉の揚げ焼きやキノコのスープもよいと思います。ドライフルーツも手に入るので、コンポットもできるでしょう。昨年、シンガポールでポーランドのクリスマス料理を紹介した時、豊かな香りや風味を備えたコンポットはとても人気でした。デザートには、イースト生地のケーキ、ジンジャーブレッド・クッキーや熟成ピェルニクがお勧めです。
もしクリスマスの時期にポーランドに滞在するならば、ぜひポーランド料理のレストランに行ってみてください。多くのレストランでクリスマス料理が提供されています。近年はポーランドの多くの街でクリスマスマーケットが開催され、非常な人気を得ていますが、クリスマスマーケットで出されているポーランドのクリスマス料理を試してみるのもよい考えです。
マグダレナ・トマシェフスカ=ボラウェク
(Magdalena Tomaszewska-Bolałek)博士
『ポーランド料理道』日本語版。写真:ポーランド共和国外務省
東洋学研究者、専門は観光・料理外交、国家・地域ブランド化。ワルシャワの社会科学・人文科学大学(SWPS)フードスタディーズ・プログラムのディレクター、国際食文化芸術観光研究所(International Institute of Gastronomy, Culture, Arts and Tourism, バルセロナ)エキスパート。食文化について多くの本を執筆し、グルマン世界料理本賞、Prix de la Littérature Gastronomique、Diamond Cuisine Award(中国)、マゼラン賞(ポーランド)を始め、多数の国際的な賞を受賞。広東外語外資大学、北京外国語大学、バンコクのチュラロンコーン大学でポーランドの食文化についての講義を担当。ポーランド国内外のメディアに頻繁に登場。
ポーランド料理についての著書:
『ポーランド料理道』https://issuu.com/msz.gov.pl/
『ポーランドの食卓』https://bunkatura.pl/%e3%83%
執筆:アグニェシュカ・ヴイチンスカ(Agnieszka Wójcińska)、2025年11月24日
編集・日本語訳:柴田恭子(Yasuko Shibata)、2025年11月