ポーランド料理の再発見――世界の食文化に挑む、現代的アプローチ
ポーランド料理はこれまで、国際的な舞台で脚光を浴びることがなく、世界の人々にとって日常的に親しまれる存在とは言えなかった。しかし今、現代的なアレンジによって、その状況が変わりつつあるかもしれない。
もちろん定番もある。ピエロギ、ポンチキ、そしてポーランドソーセージは、多くの人が一度は口にしたことがあるだろう——ただし、それが本場の味わいをきちんと再現したものだったとは限らない。
乾燥ポルチーニ入りジュレック、『Fresh from Poland』掲載 © Michał Korkosz, 2020年。写真:出版社 The Experiment の許可を得て転載
以前、『トップシェフ』という番組で、ある挑戦者がポーランドソーセージを使った料理を作らなければならなくなり、泣きそうになっていたのを今でも覚えている。ポーランド料理には、いろいろなステレオタイプがつきまとう。「重くて肉だらけ」「まあ、ほっとするけど、あまりバリエーションがない」「繊細さに欠ける」「脂っこくて茶色くて、じゃがいもばかり」――そんなイメージを持たれていることが多い。正直、ちょっと退屈だと思っている人もいるかもしれない。
しかし、ここ10年ほどで、ポーランド国内では自国の食文化を「見つめ直し」「掘り下げ」「宣伝していく」動きが大きく進展している。その豊かさや複雑な歴史について、ポーランド人自身も驚くほど多くのことを再発見しており、時に圧倒されるほどだ。けれども、こうした新たな発見は、これまで自国の料理の魅力に自信が持てなかった海外在住のポーランド人にとって、大きな力にもなり得る。
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ポーランドに行く前、私のポーランド料理に対する知識は、ニューヨークでの限られた経験に基づく、ごく曖昧なものでしかなかった。そんな私がポーランドを訪れたのは、アダム・ミツキェヴィチ・インスティテュートからの招待がきっかけだった。何も知らなかったからこそ、そして、だからこそ興味が湧いた。
そう語るのは、食文化研究者のファビオ・パラセコリ(Fabio Parasecoli)教授。ここ数年、彼はポーランドの食の世界における変化をテーマにしたプロジェクトに取り組んでいる。
『Saveur』誌のベスト・フードフォトグラフィー賞を受賞し、2020年にアメリカでポーランド料理本『Fresh from Poland』を出版したミハウ・コルコシュ(Michał Korkosz)も、こう語る。
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東欧は今でも「食の地図」における空白地帯のように見られていて、だからこそ人々はそこに好奇心を抱いていると思います。〔……〕とはいえ、ポーランド料理にはいまだに「東側陣営」の重苦しいイメージがつきまとっているようにも感じます。広く「東欧料理」というカテゴリーにまとめられがちですが、実はその多様性は驚くほどなんです。もちろん、ポーランド料理とウクライナ料理、ロシア料理、リトアニア料理には共通点もありますが、それぞれにフランス料理の影響も見られたりして、それもまた歴史の一部なんですよ。
アメリカ各地で人気を集めるポーランド料理のキッチンカーの成功が示すように、少なくとも定番料理のひとつ――ピエロギ――には確かな関心がある。ブルックリン拠点の「ピエロギ・ボーイズ」(Pierogi Boys)は、そんな懐かしくてほっとする味を、「ヒップスターのマストイート」として打ち出しているスポットのひとつだ。クシシュトフとアンジェイは、ニューヨーカーたちは間違いなくポーランド料理を受け入れる準備ができていると信じている。
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ピエロギ・ボーイズを始めたきっかけのひとつは、アメリカの友人たちがポーランド料理に興味を持ってくれたことでした。多くのお客さんが、「昔、ポーランド人の友だちがいた」とか、「遠い親戚がピエロギやゴウォンプキを作ってくれた」といった思い出を話してくれます。そうした料理は、心に残る「なつかしい味」として記憶されていて、何年経ってももう一度食べたいという気持ちになるんです。それに、最近ではヨーロッパを旅行してポーランド料理を現地で味わうアメリカ人も増えていて、多くの人が「こんなに親しみやすくて美味しいなんて!」と驚くようです。
今日では、ポーランド人は伝統的な食材(ガチョウ、サジー、菜種油など)や調理法(発酵、燻製など)に、あらためて誇りを見いだし始めている。さまざまな社会階層がどんな食文化に触れてきたのか、歴史的な背景を掘り下げる研究も進んでおり、ついに「宮廷料理」と「農民の食事」の違いや、地域ごとの食文化の違いを真剣に学問的に扱う時代がやってきたのだ。
ミルクバー(bar mlecznyバル・ムレチュニィ)は、ポーランド独自のレストラン形態ともいえる存在だが、いまだに海外で再現された例はない。手頃な価格で、主に野菜や粉ものを使った家庭的な料理を提供するこうした食堂は、もしかすると経済危機の時代にこそ求められる、新たな食文化のコンセプトになるかもしれない。
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『Flavor of Poland』より一場面。写真: Independent Film Factory, Inc. 提供
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とはいえ、ポーランド料理は「質素」なだけではない。
ザリガニやエスカルゴをポーランドと結びつけて考える人は少ないかもしれないが、実はザリガニのスープは複数の地方で知られる名物料理であり、エスカルゴに至っては16世紀からイタリアから輸入され、今では国内で養殖されている。ポモージェ地方には、琥珀のスパイスをきかせた金色のリキュールで仕上げる魚のスープがあり、かつての宮廷料理の主役はチョウザメや鹿肉だった。
こうした「異国的」とも思えるポーランド料理の数々を、アメリカの視聴者も今では楽しめるようになった。ポーランドに完全にフォーカスした初の公共テレビ向け料理トラベル番組が放送されているのだ。
「Flavor of Poland(ポーランドの風味)」は、エディタ・シルサルチク(Edyta Ślusarczyk)とロベルト・N・ヴァホヴィアク(Robert N. Wachowiak)によって制作された番組で、ポーランド料理に対する「重たくて退屈」といったステレオタイプを打ち破ることを目的としている。同時に、ポーランド全土の料理の驚くべき多様性を余すことなく紹介することも目指しており、全国16地域のうち13地域を巡り、現代料理から歴史的な料理まで幅広く取り上げている。
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『Flavor of Poland』より一場面。写真: Independent Film Factory, Inc. 提供
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地方料理を「国を代表するいくつかの決まった料理」としてではなく、ひとつの国の中に存在する個々の小さな文化の集合体として捉える視点は、イタリアとその各地方のおかげで、ようやく人々に広まり始めた。実は、ポーランドも(一般的なイメージに反して)まさに同じような多様性を持っており、こうした豊かさは世界にこそ伝える価値がある。
「Flavor of Poland」だけが、ポーランド料理の新たな魅力を英語圏の人々に伝えようとしているわけではない。過去数十年の間に、デザインや写真も美しい料理本がいくつか出版されてきた。たとえば、べアタ・ザトルスカ(Beata Zatorska)とサイモン・ターゲット(Simon Target)による、ポーランドの夏を描いたノスタルジックな一冊『Rose Petal Jam: Recipes and Stories from a Summer in Poland(バラのジャムとポーランドの夏の思い出)』や、イギリス在住のズザ・ザック(Zuza Zak)による『Polska: New Polish Cooking(ポルスカ――新しいポーランド料理)』などがある。
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2019年9月21日、カリフォルニア州ロサンゼルスのThe GroveにあるBarnes & Nobleにて、自著『Antoni in the Kitchen』のサイン会に出席するアントニ・ポロウスキ。写真:Michael Tullberg / Getty Images
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ポーランド料理には、実は「セレブ大使」もいる。カナダ出身のポーランド系タレント、アントニ・ポロウスキ(Antoni Porowski)だ。彼は人気番組「クィア・アイ」のメンバーのひとりで、2019年には料理本『Antoni in the Kitchen』を出版した。この本には世界各地のレシピが収められているが、アントニ自身は、家族の料理――つまりポーランドの味――に特別な思い入れがあると認めている。ただし、それに気づいたのは最近のことだという。『ハリウッド・リポーター』のインタビューで、彼はこう語っている。
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子どもの頃は、自分がポーランド系であることを本当に恥ずかしく思っていました。でも大人になるにつれて、自分の名前は恥じるものではないと気づいたんです。昔はもう二度とキャベツやポーランド料理なんて食べたくないと思っていたけれど、今では、そうしたレシピのひとつひとつを見直してみて、やっぱり大好きなんだと実感しています。むしろ、誇りに思えるようになりました。
今ではアントニ自身が、二日酔いに効く究極の一皿として愛するポーランドの伝統的スープ「ジュレック(żurek)」の作り方まで教えてくれるようになった。
そして最近のポーランド料理本の中で注目すべき一冊が、先述のミハウ・コルコシュによる『Fresh from Poland』である。この本の最大の特徴は、ポーランド料理をモダンで鮮やかに再解釈しているだけでなく、全編がベジタリアンレシピで構成されている点だ。著者のコルコシュはこう語っている。
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ポーランド料理の「菜食」の側面を紹介するのは、自分にとってごく自然な選択でした。理由は単純で、それが僕自身いちばん好きな料理だからです。国際的にもっと注目されるべき食材が、実はたくさんあるんですよ。たとえば、ソバや丸麦といった雑穀類やコールドプレスの植物油、乳製品(トファルク{twaróg}チーズやケフィア)、そして何よりも四季折々の野菜や果物。特にベリー類は、ポーランドが世界最大の輸出国なんです。
『Fresh from Poland: New Vegetarian Cooking from the Old Country』ミハウ・コルコシュ著の表紙
コルコシュは、鮮やかな春のミレットサラダやカリッと香ばしいザワークラウトのフリッターだって、これまでポーランドと結びつけられてきたソーセージやシチューと同じくらい「ポーランドらしい」料理であることを示している。
彼の料理本をはじめ、ブルックリンの人気店「ピエロギ・ボーイズ」でのヒップな食体験、テレビ番組「Flavor of Poland」、そしてファビオ・パラセコリやマテウシュ・ハラヴァ(Mateusz Halawa)らによる継続的な研究を通じて、国際的な観客もついに、真のポーランド料理の魅力と、その絶えず進化する姿を発見しはじめている。
執筆:ナタリア・メントラク=ルダ(Natalia Mętrak-Ruda)、2020年5月、改訂:2021年2月
日本語訳・編集:下村杏奈(Anna Shimomura)、2025年5月