摘んで、飲んで、恋に落ちよう――ポーランドの惚れ薬
人々は遠い昔から、ある物質の作用によって恋に落ちたり、自分に恋させたり、性欲を高めたり、カップルに永遠の幸せを約束したりする、と本気で信じてきた。
『博物誌』を執筆した古代ローマの大プリニウスは、すりおろしたニンニクと新鮮なコリアンダーを加えたワインを推奨した。プレイボーイとして知られるジャコモ・カサノヴァは、毎日50個の牡蠣を食べたらしい。ザクロから阿片、アスパラガスから(毎年バレンタインデーに売り上げが急増する)チョコレートに至るまで、恋愛やセックスと結びつけられている食材は、数えきれないほど。イギリスの人気料理評論家、ジェイ・レイナー(Jay Rayner)によれば、「食べられる媚薬はただ一つ、発酵させたブドウだけ」と言う。その言葉には一理あるかもしれないが、恋についての私たちの想像力は、多様なハーブ、果物やその他の植物により、何世紀にもわたってかき立てられてきた。
ジグムント・グロゲル(Zygmunt Gloger, 1845-1910)編『Encyklopedia Staropolska(古ポーランド百科事典)』(1900-1903)第4巻に収録されている「Rośliny miłośnicze(愛の植物)」の項目で、著名な植物学者ユゼフ・ロスタフィンスキ(Józef Rostafiński, 1850-1928)がこう書いている:
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〔15世紀の手稿には植物の名前についての記述が見られ、〕森の中で枯れつつある木の枝から髭のように垂れ下がる、「Całuj mnie(私にキスして)」と名付けられた苔の一種について書かれている。最も頻繁に言及されるのは「nasięźrzał(ナシェンジジャウ)」で、この魔力を持つ重要な恋の薬草は、小さな、独特なシダである〔……〕。そのほか、ラベージや、魔力の強い「dziewięciornik(ヂェヴェンチョルニク)」〔学名:Parnassia、和名:ウメバチソウ〕〔名前は、古代の宗教・医療で「9」(ポーランド語で「dziewięć」)が神秘的な数とみなされていたことに由来〕が登場する。これらの手稿から、中世の庭では、ラテン名「philirosa」から「fioletka(フィョレトカ)」と呼ばれるようになった「愛のバラ」が栽培されていたことがわかる。〔……〕当時、士族の邸宅では「brunat(ブルナト)」や「szarłat(シャルワト)」と呼ばれる「愛の花(Flos amoris)」、アマランサスも植えられていた〔「ブルナト」は濃い茶色、「シャルワト」は深紅色を意味する「szkarłat(シュカルワト)」に由来〕。
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クパワの夜。写真:Przemysła Graf / Agencja Gazeta
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さっそく、ポーランドの民間信仰や慣習に根ざした惚れ薬を、いくつか見ていこう。その多くは「クパワの夜(Noc Kupały)」、つまりスラヴの夏至祭りと結びついており、本稿で紹介する例のほとんどは、2016年に出版されたモニカ・クヤフスカ(Monika Kujawska)、ウカシュ・ウチャイ(Łukasz Łuczaj)、ヨアンナ・ソスノフスカ(Joanna Sosnowska)とピョトル・クレパツキ(Piotr Klepacki)編集の書籍『Rośliny w wierzeniach i zwyczajach ludowych(民間信仰と風習における植物)』に収録されている。この素晴らしい本は、ポーランド民俗学者・民族学者のアダム・フィシェル(Adam Fischer, 1889-1943)が大戦間期に行った研究を基にして書かれている。
『Rośliny w wierzeniach i zwyczajach ludowych』は、16世紀から17世紀にかけ、ステファン・ファリミェシュ(Stefan Falimierz, 16世紀前半)による『O ziołach i mocy ich(薬草とその力について)』とシモン・シレニウシュ(Szymon Syreniusz, 1540-1611)の『Zielnik(植物標本集)』が創始した、ポーランド植物学の伝統を受け継いでいる。19世紀・20世紀には、オスカル・コルベルク(Oskar Kolberg, 1814-1890)、ジグムント・グロゲル、アレクサンデル・ブルックネル(Aleksander Bruckner, 1856-1939)やカジミェシュ・モシンスキ(Kazimierz Moszyński, 1887-1959)といった民俗学者やスラヴ学者たちによって、この分野の研究が発展していった。
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ラベージ。写真:Paweł Małecki / Agencja Gazeta
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まず、ポーランド語でルプチク(lubczyk)と呼ばれる、ラベージを取り上げよう。これは間違いなく、媚薬としてポーランド人が真っ先に連想する植物だ。実はポーランド語ではルプシク(lubszyk)、ルプシュチク(lubszczyk)、ルビェシュチク(lubieszczyk)、ルビェニェツ(lubieniec)など、名前にいくつもバリエーションがあり、これらは皆、学名の「Levisticum officinale」に由来する。ただ、通常はどれも「愛する」を意味する「ルビチ(lubić)」という単語が連想されることが多い。
ラベージはパセリとセロリの香り・風味をそれぞれ強めたようなハーブで、とても人気があり、豊かな「うま味」を活かすため(スープにラベージを入れると、味が劇的に変わる!)ヨーロッパでは古くから使われている。かつて、このハーブには、恋人候補の人に欲望や恋慕の情を呼び起こさせる効果があると信じられていた。ラベージやヘーゼル(ハシバミ)は、未来の幸せを願って、薬効湯に用いられたという。思わず感嘆するほど美しい、うら若い乙女たちは、子どもの頃にラベージ湯に入浴したと考えられていた。早いこと夫が見つかるよう、ラベージの小枝を持ち歩いていたとも言われる。一方、若い男性もこのハーブを用いて入浴すると、お目当ての女性に強い印象を与えることができると期待された。
ポーランド中央部、ヴィエルコポルスカ(Wielkopolska)地方の街、カリシュ(Kalisz)の一帯には、満月の日の真夜中に「ルビェニェツよ、われは汝を5本の指と6本目の手で摘み取る、わが愛を皆に求めさせよ」と呪文を唱えつつ、ラベージを摘み取る風習があったという。
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ポーランド語で「蛇の舌」とも呼ばれるナシェンジジャウ。写真:Flpa / East News
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民俗学者たちは、シダ科に属するナシェンジジャウ(nasięźrzał)〔学名:Ophioglossum, 和名:ハナヤスリ〕の名前が様々に形を変えてきたことを指摘しつつ、古ポーランド語で「自らを見る」を意味する「na się źrzeć」という表現に由来すると述べている。ラテン語の学名を始め、その他の言語では植物自体の見かけに関連する名前が多く、ポーランド語でも「wężowy język(蛇の舌)」や「język żmii(毒蛇の舌)」と呼ばれることがある。ジグムント・グロゲルによれば、ナシェンジジャウもまた、真夜中に、それもかなり変わった方法で摘み取られる:
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民間信仰によれば、男子を自分に惚れさせたいと願う女子は、このシダを、奇妙きてれつな方法で手に入れねばならない。日中、ナシェンジジャウの生えている場所を見つけたら、真夜中になってからそこに戻らねばならない。それも裸になって、悪魔にさらわれないよう、後ろ向きになって草を摘み取る。
そうやって摘み取ったら、この乙女は、上に引用したラベージ(ルビェニェツ)のまじないと似た、呪文の言葉を唱える。そして草を自分の肌に全身、まんべんなくこすりつけると、魅力が増すとされた。
「クパワの夜」のみに咲き、きわめて高潔な人のみが探すことができるというシダの神秘的な花も、恋の魔法の一部をなしていた。おそらく、かなり効果があったことだろう。夏至の夜は、まだ年若い男女が付き添いや年長者の監視なしに一緒に過ごすことが許される、数少ない機会の一つだった。
シダの花の象徴的な意味は非常に強く、スラヴの祭りから何世紀もの時を経てなお、忘れ去られることはなかった。19世紀の小説家で、ポーランドの伝説や歴史を記録したユゼフ・イグナツィ・クラシェフスキ(Józef Ignacy Kraszewski, 1812-1887)は、この花についての童話「Kwiat paproci(シダの花)」を書いている。作詞家のヨナシュ・コフタ(Jonasz Kofta, 1942-1988)は「Kwiat jednej nocy(一夜の花)」(1969)というタイトルの美しい歌に歌詞をつけ、女性歌手グループ、アリバプキ(Alibabki)がこれを歌っている。
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バルヴィネク。写真:Wacła Klag / East News
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ポーランド語でバルヴィネク(barwinek)と呼ばれる常緑・蔓性の植物(学名:Vinca minor, 和名:ツルニチニチソウ)は、17世紀末に『De secretis mulierum(女の秘密)』がポーランド語に翻訳され、『O sekretach bialogłowskich(女の秘密について)』(1698)として刊行された頃から、媚薬として知られていた。13世紀ドイツの哲学者・神学者アルベルトゥス・マグヌス(Albertus Magnus, c. 1200-1280)が著者と考えられているが、実際は彼の弟子の一人が執筆したもので、性行動・性衝動や生殖の問題が解説されている。星の動きが胎児に及ぼす影響が主なテーマとして詳細に論じられているが、カップル向けの植物についても書かれており、Vinca、つまりバルヴィネクも催淫剤の一つとして推奨されている。
アダム・フィシェルによると、ポーランド南部、マウォポルスカ地方に、バルヴィネクを媚薬とする民間信仰や風習が見られる。古都クラクフがあるマウォポルスカ地方では、常緑のバルヴィネクの葉を用いて、花嫁と介添人の花かんむりが作られていたという。バルヴィネクは様々な草花で装飾された婚礼柱(花嫁が持つブーケの代わりでもあった)でも大きな割合を占め、婚礼のパンの飾りつけにも用いられた。
マウォポルスカ地方のアンドリフフ(Andrychów)では、女性たちが「ヤシネク、ヤシネク、どこからバルヴィネクを取ってきたの」〔「ヤシネク(Jasinek)」は男性の名前「ヤン(Jan)」の愛称〕と歌う、バルヴィネクについての恋の民謡まで存在する。
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ブラテク(bratek, 学名:Viola tricolor)つまりパンジーは、愛を描いた民話で主要な役割を果たすが、ハッピーエンドにはならない。ブラテクという名前は、なんと兄弟・姉妹間の禁断の愛に由来する〔ポーランド語で「ブラテク(bratek)」は兄弟の愛称〕。カジミェシュ・モシンスキは以下のように述べている:
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儀礼において重要な役割を担う、魔力のない植物のうち、何より注目すべきはブラテクとプシェニェツ・ガヨヴィ(pszeniec gajowy, 学名:Melampyrum nemorosum, ママコナ属の植物)である。これらの草は、民間伝承では互いに入れ替わることがあり、明るい黄色、そして暗い青または紫色の、2色を組み合わせた花を特徴とする。ブラテクやプシェニェツについての伝説はそれぞれ北スラヴ人の間で継承され、これらの草花は、兄妹間の罪深い愛から生まれたとされている。ここから、ポレシェ(Polesie)地方〔現在のウクライナ北部、ベラルーシ南部、ポーランド東部とロシア西部の一部を含む、歴史的な地方〕とベラルーシの一部では、兄妹による近親相姦の筋を取り入れた物語詩が作られ、広まった。〔……〕ブラテクとプシェニェツが人間に由来するとする民間伝承が今なお残っている地域では、黄色い花びらは兄、青紫の花びらは妹の姿が変えられたものと考えられている。
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ローズマリー。写真:Justyna Rojek / East News
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ああ、わがローズマリーよ、伸びよ、栄えよ
われはただ一人と決めた乙女のもとに行き
その想いを訊く
第一次大戦の頃の最も有名なポーランド軍歌の一つの中で、ローズマリーが歌われている。香り高く、広く使われていたこのハーブは、結婚の重要な象徴であるとともに、恋の呪文としても用いられた。ポーランド西部の街、ポズナン(Poznań)周辺の風習についてのオスカル・コルベルクの調査によると、女性は、自分が恋慕う人のシャツの胸のあたりに、ローズマリーの小枝をちゃんと挿すことができれば、相手も自分の気持ちに応えてくれると確信したという。
恋に落ちた時、ポーランド語では今でも、想いを寄せる人に対して「czuje do kogoś miętę(〜にミントを感じる)」と言う。ミントは必ずしも媚薬とはとらえられていないが、ポーランドの詩人たちは、ロマンチックな情景を描くのにミントをしばしば用いている。
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アンジェイ・ワイダ監督『パン・タデウシュ物語』。写真:Canal+ Polska
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窓辺には鉢植えが並び、香り高い草花ばかりが植わる
ゼラニウム、ストック、アスター、それに菫(すみれ)など。
庭の片隅、以前は刺草(いらくさ)の茂るに任せた辺りが
ちいさな庭園に変わり、小径に仕切られて
イギリス芝とミントが盛りを競い合う。
(アダム・ミツキェヴィチ『パン・タデウシュ』「第一之書 農園」工藤幸雄訳)
アダム・ミツキェヴィチはかの名高い『パン・タデウシュ(Pan Tadeusz)』において、主人公タデウシュと最愛の人、ゾーシャの出会いをこのように描いた。
シロンスク(Śląsk)地方では、ブナも恋の魔法に使われる。誰かを魅了し、自分を好きになってもらうためには、森の中でモミの木のそばに生えているブナの木を見つけなければならない。風が吹くと、互いの枝が触れるような位置だ。2種の木の枝がそうやって触れ合う部分の樹皮を少し剥ぎ、これを燃やしたものを煎じて、好きな人に飲ませよう。そうすれば相手はその場で即、夢中になってくれるだろう。
さあ、これらの情報をすべて読破したならば、もうバレンタインデーの準備は万端のはず。もしそうでないと感じる人は、「クパワの夜」を待てばよい。6月、ヨーロッパの森では、ここで紹介した植物の多くが採取可能になる。そう、もし運がよければ、あの伝説のシダの花も、うまく見つかるかもしれない。
執筆:ナタリア・メントラク(Natalia Mętrak)、2021年2月9日、改訂:2024年2月8日
日本語訳・編集:柴田恭子(Yasuko Shibata)、2026年1月