おばあちゃんの手料理
どの国の食文化にも、代表的な料理や見事な創作料理、そしてそれを編み出したシェフたちがいる。皆がこぞって褒め称えるのは、道を極めた達人の技や、国を象徴したり独創的だったり、ひと味もふた味も違う料理だけれど、料理にはもう一つ別のカテゴリーがある。肩肘張らず、つつましく、優しい感性が活かされたいつもの食事、そう、「おばあちゃんがよく作ってくれた」料理だ。
ポーランドの「バプチャ(babcia)」つまりおばあちゃんは、イタリアの「ノンナ(nonna)」と同様、「炉端のあたたかさ」や子どもの頃の大切な思い出を連想させる、象徴的な存在だ。もちろんおばあちゃんが皆、料理をするわけではないし、これと言った思い出がない人もいると思うが、「おばあちゃんの料理」と聞くと、なんとなく郷愁を感じ、あたたかく心地よい、何よりほっとする食べ物を思い浮かべるのでは。
湯気が立つ熱々のスープ
「ロスウ」。写真:Tomasz Adamowicz / Forum
スープはポーランドの食文化で最も大切な要素。ポーランド人はスープをこよなく愛し、その美味しさに胸を張る。この国では長い間、スープなしの「オビャト(obiad)」〔昼食または夕食。1日のうち1番ボリュームのある食事で、英語のディナーにあたる〕なんて想像もできなかった。スープはオビャトを構成する第一皿だが、現在のポーランドでは「スープと第二皿(zupa i drugie)」と聞くと、週末に訪ねる「親(または祖父母)の家」を連想する人が多い。日中仕事をした後、自宅で2種類の料理を用意するという人は減り、毎日の食事のメニューも変わってきているためだ。外で働いている間に手早くランチを済ませ、帰宅してあたたかい夕食をとる、アメリカや西欧諸国のモデルに従うケースが増えている。これに対し、伝統的なポーランドのオビャトは午後2時か3時頃にしっかりとるあたたかい食事。その場合、夜はより軽い、火を使わず簡単に用意できる「冷たい夕食」になる。
「おばあちゃんの台所」には、美味しそうなスープの匂いがいつも漂っている。香り高いポーランドのチキンスープ「ロスウ(rosół)」をまず作ったら、それにトマトペーストを加えれば「ポミドロヴァ(pomidorowa)」つまりトマトスープに変身する。実は、トマトスープに米を入れるか麺を入れるかは、ポーランド料理で最も白熱する議論の一つ。個人的には、ゆるい生地をスープにすくい入れて成形するドロップ・ダンプリングが好きだ。じゃがいもにライ麦発酵液「ジュル(żur)」を注ぐだけの素朴なスープ、ザレヴァイカ(zalewajka)や、ビーツのスープにクリームを加え、マッシュポテトとスクファルキ(skwarki)〔豚肉の脂身やベーコンの細切れを炒めてカリカリにしたもの〕と一緒に供されるバルシュチュ・ザビェラヌィ(barszcz zabielany)〔直訳は「白くされたバルシュチュ」〕は、地方の家庭でよく見かける。果物のスープを懐かしく思う人は多い(もっとも、これが嫌いで、悪夢だという人もいる)。りんご、チェリー、イチゴやプラムを煮て甘くし、ポーランド人が愛する古き良き飲み物、あたたかい「コンポット(kompot)」ができたら、それを深皿に注ぎ、麺と一緒に供する。
典型的な「オビャト」
「コンポット」。写真:Wojciech Traczyk / AG
ポーランド料理の正統派メニューには3つの要素がある:肉(金曜日には魚。ローマ・カトリックの伝統に従う人は少なくなってきているが、年長の世代はたいてい、肉食を避ける「節制」の日に決まって魚料理を作る)、じゃがいも(ひき割りの穀物やゆでたダンプリングに替わることもある)、そして付け合わせの野菜だ。倹約や創意工夫が得意な人は、スープの出汁をとった後のゆで肉(sztuka mięsa)を活用したり、子どもが大好きなひき肉のミートボール(優しい味のディル・ソースを添えることが多い)やハンバーグ(kotlet mielony)を作る。とんかつ(kotlet schabowy)も人気だが、子どものために作る場合は、健康を考えて豚肉ではなく、より軽くて消化によい鶏肉を使うことが多い。肉の付け合わせには、りんごと生にんじんを粗い目ですりおろしたサラダ、にんじんとエンドウ豆を一緒にゆでたもの、ゆでて粗くおろした甘いビーツにルー(小麦粉をバター等、同量の油脂と合わせたもの)でとろみをつけたものなど、子どもが好みそうな野菜料理を添える。ザワークラウトのサラダは、カリッと揚げた魚の油っこさを絶妙に調和してくれる。
「コピトカ」。写真:iStockphoto / Getty Images
おばあちゃんは、ダンプリングも作る。「バプチャ」の典型的なイメージは、熟練の主婦や年金暮らしの人で、物理的に家にいる時間が長いため、主に外で仕事をする親の世代がめったにできないものを、孫のために作ることができる。そんな料理に数えられるのが、手間のかかるダンプリングだ。小麦粉ベースで炭水化物たっぷりの、とびきり美味しいピエロギ(pierogi)、クルスキ(kluski)、コピトカ(kopytka)は、多くの人にとり、子ども時代の懐かしい思い出の一つになっている。
デザートならいつでも
甘い料理をメインに据えるのはきわめてポーランド的な考えで、違う国からやって来た人は驚くかもしれないが、子どもにとっては実に魅力的なメニューだ。おばあちゃんが目に入れても痛くない、かわいい孫たちに作る料理とは?王道はクレープ、そして甘くした「トファルク(twaróg)」つまり白チーズ(カッテージチーズ)を詰めたピエロギと、これまたトファルクが主な材料のダンプリングで、クリームかバターで揚げたパン粉を添えて出される「レニヴェ(leniwe)」も人気だ。小さく切った、またはおろしりんごを混ぜ込んだポーランドのパンケーキ「ラツヒィ(racuchy)」や、米をミルクで煮た後、りんごを重ねて焼き、仕上げにクリームを添える料理もある。
トファルク――ポーランドの白チーズ。写真:East News
デザートのような一皿がメインであったとしても、おばあちゃんはもちろん、さらに「本来の」デザートを作ってくれる。普段の日の食後にぴったりで、安らぎと郷愁のイメージがある、簡単なプディングを3つ挙げよう:「キシェル(kisiel)」、「ブディン(budyń)」、「コゲル・モゲル(kogel-mogel)」だ。キシェルは伝統的なスラヴの果物ベースの甘味で、名前は「酸っぱい」を意味する語、「キスウィ(kisły)」に由来する。ベリーの果汁を熱してポテトスターチでとろみをつけ、時にはこれにクリームをちょっとのせ、温かいままいただく。二つ目は「ミルク・キシェル」とでも言えるもの。ミルクを熱し、スターチでとろみをつけるのはキシェルと同じプロセスで、ヴァニラかチョコレートで風味を添える。今はどちらも手軽なパッケージ入りの粉が販売されており、熱湯か熱いミルクに加えるだけでよいものの、家で作ったキシェルやブディンのあたたかい、絶妙な食感と美味しさにはかなわない。三つ目のコゲル・モゲルはエッグノッグと似た風味で、たいてい、甘いものが無性に食べたくなった時に作られる。新鮮な卵の黄身に砂糖を加えて勢いよくかき混ぜれば、甘くてクリーミー、ちょっとセンチメンタルなデザートの出来上がりだ。
身体と心が覚えている味、子どもの頃に大好きだった料理は、いつも私たちに安らぎをもたらし、大人になってから夢中になる、異国の珍しい食べ物とはまったく違う、別次元の意味を持っている。「愛情のこもった食事」は月並みな表現かもしれないが、今も私たちの語彙にあるとしたら、ぜひこの言葉を使って、おばあちゃんの台所の思い出を綴りたい。
執筆: ナタリア・メントラク=ルダ(Natalia Mętrak-Ruda)、2023年3月24日
日本語訳:柴田恭子(Yasuko Shibata)、2025年11月