心安らぐポーランドの家庭料理
ポーランド料理は高カロリーで、炭水化物の存在感が大きい。ジャガイモとバターをたっぷり使い、舌触りは柔らかくクリーミー、あたたかくどっしりした味で、材料はシンプル。食べる人に安らぎを与え、幸せで、ほっとした気持ちにさせてくれる、そんな料理だ。
大変な時、人々は食べ物に癒しを見出すことが知られている。「貧しさ、そして戦争の恐怖と苦しみに面した時、私たちが尊厳と品位を保ち続けることができるもっとも気高い方法の一つが、可能な限りの技と繊細な感性を用いて自分に栄養を与え、そこから得られる楽しみを増やしていくことです」――アメリカのフードライター、M・F・K・フィッシャー(M.F.K. Fisher)は、伝説的な戦時下の料理本『How to Cook a Wolf(オオカミの料理法)』(1942)でこう書いている。
世界で起こっている全てのことについて心配になったり、ソーシャルディスタンシングにうんざりしたり、ただ気分がすぐれなかったり……。どんなことでもよいが、何かに落ち込んだ時に家で作ると元気になる、ポーランドの家庭料理をいくつか紹介しよう。
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ジャガイモ、豚カツと新キャベツの一皿、レストラン「ナクリト(Nakryto)」、クラクフ。写真:Jakub Porzycki / AG
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ポーランド人がこよなく愛するジャガイモの料理を一つだけ挙げるように言われても、それはかなり無理がある。ジャガイモは貧困と戦争の時代、私たちの相棒だった存在で、信じられないほど万能な野菜だからだ。バターをたっぷり加えてディルを散らしたマッシュポテトはそこまでポーランド的な料理ではないが、ゆでてつぶしたジャガイモとカッテージチーズが具のピエロギ(pierogi)、またゴウォンプキ(gołąbki)〔ロールキャベツ。中身は豚ひき肉と玉ねぎ、米または蕎麦の実のことが多いが、ポーランド北東部では野菜とベーコン、生ジャガイモのすりおろしを用いる〕、ジャガイモのスープ(kartoflanka)〔ジャガイモを人参、玉ねぎ、パセリの根、セロリ等の野菜、ベーコンやソーセージと一緒に煮たスープ〕はもちろん、ジャガイモのキシュカ(kiszka ziemniaczana)〔すりおろした生のジャガイモ、玉ねぎ、豚肉、ベーコンまたは脂身を豚の腸に詰めたもの〕やバプカ(babka ziemniaczana)〔生ジャガイモのすりおろし、卵、玉ねぎ、ベーコンまたはソーセージ等を混ぜ、陶製の壺に入れて焼く〕など、ポーランド北東部に位置するポドラシェ地方のジャガイモ料理は、胸を張ってポーランド料理と言えるだろう。手早く食事を済ませたかったら、ジャガイモをゆでてバターとディルで和え、酸味の効いたポーランドのケフィル(kefir)かサワーミルクを片手に、お皿をつつきたい。家でもっとゆっくり料理する時間があるなら、ぜひジャガイモを詰めたピエロギを作ろう。
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牛肉ロール、シロンスク風クルスキと赤キャベツの付け合わせ。写真:Damian Klamka / East News
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コピトカ(kopytka)、シロンスク風クルスキ(kluski śląskie)〔「クルスキ」は団子、ダンプリングのこと〕、ピズィ(pyzy)、カルタチェ(kartacze)、シャレ・クルスキ(szare kluski)……ポーランドにはジャガイモを用いて作るダンプリングの種類が実にたくさん、地域ごとにあり、イタリアに「ニョッキ gnocchi」しかないのがおかしく感じられるほど。冗談はさておき、ポーランドのコピトカ〔ゆでてつぶしたジャガイモに少量の小麦粉を加えて生地を作り、棒状にして、名前の通り「小さなひづめ」のようなダイヤ型になるよう端から切る〕はニョッキと非常によく似ている。シロンスク風クルスキはジャガイモだけから作られているので、図らずもグルテンフリーとして通用する。ピズィやカルタチェの具はたいてい、肉かチーズだ。カルタチェは「弾丸」という意味で、その名にふさわしく独特の形をしており、「シャレ・クルスキ(直訳は灰色のダンプリング)」と同じく、すりおろした生ジャガイモで生地を作る。この他、ダンプリングのリストは延々と続く。どれを選ぶにせよ、炒めた玉ねぎを添えて、そしてもしベジタリアンでなかったら、カリカリのスクファルキ(skwarki)〔豚の脂身の塩漬けやベーコンを細かく切り、脂が出てしまうまで炒めたもの〕もトッピングにしよう。
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ナレシニキ。写真:Damian Klamka / East News
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小麦粉を使った料理も忘れてはいけない。ポーランド語でクレープは「ナレシニキ(naleśniki)」と言う。もっとも簡単に作ることのできる小麦粉ベースの料理の一つで、多くの人にとって子どもの頃を思い出す、懐かしい味の代表だ。現在、クレープ屋を意味する「ナレシニカルニャ(naleśnikarnia)」では、ベーコンエッグ、サーモン&クリームチーズ、ボロネーゼ風ソース、ほうれん草クリームなど、ありとあらゆる種類の具を、ふんわりとした皮で包んで食べることができる。1番伝統的なフィリングは甘くしたカッテージチーズ。甘いナレシニキ(ジャムを入れても美味しい)もデザートとしてではなく、スープの直後にメインコースとして供される。
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どのような食文化にも、あたたかく、癒しの効果を持つスープがある。ポーランドではそれがロスウ(rosół)だ。この澄んだスープは、鶏肉と牛肉(またはそのどちらか)、そしてヴウォシュチズナ(włoszczyzna)つまり「イタリア野菜」と呼ばれる、ニンジン、ポロネギ、パセリの根、セロリの根、ガスコンロで焦がした玉ねぎと月桂樹の葉、オールスパイス、胡椒とラベージ(セロリと似た風味のセリ科のハーブ)等の、野菜類一式から作られる。ロスウには興味深い歴史があり、病人に治療効果を発揮するため「ポーランドのペニシリン」と呼ばれることも。
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世界一巨大なトマトスープのギネス世界記録に挑戦するシェフ、クシシュトフ・グルスキ(KrzysztofGórski)、ポーランド南東部の村、ドゥヴィコズィ(Dwikozy)。写真:Jarosław Kubalski / AG
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ポーランド人は世界一スープ(ズーパ zupa)が好きな国民だという研究がある。イースターや結婚式には酸味の効いたジュレク(żurek)、クリスマスに欠かせないのはビーツでできた真紅のバルシュチュ(barszcz)、あたたかい季節になったら、はっとするほど鮮やかなピンク色のフウォドニク(chłodnik)。でも、普段作る中でポーランド人が最も愛するのはポミドロヴァ(pomidorowa)、素朴なトマトスープだ。これにまつわる1番の謎は、新鮮なトマトで作る「べき」とわかっていながら、市販のトマトペーストと「ヴェゲタ(Vegeta)」(ユーゴスラヴィアで生まれたスパイスミックスで、東欧料理に合う旨み調味料)で作る、質素なミルクバー〔1960年代に全国に設置された、安価な定食を提供する食堂〕版を好むということ。トマトスープについては「麺、それとも米を入れるべきか*」という、ポーランド文化において最も根本的な料理論争の一つが続いていることも知っておこう(*筆者が推すのはもちろん麺!)
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キノコのソースを添えたゴウォンプキ。写真:Leszek Glasner / East News
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トマトペーストが重要な役割を果たすポーランド料理は、スープだけではない。トマトペーストをベースにして小麦粉でとろみをつけたクリーミーなソースは、上でちょっと言及したかの有名なゴウォンプキ(米とひき肉を詰めたロールキャベツ)、またポーランドのミートボール「クロプスィ(klopsy)」や「プルペティ(pulpety)」など、人気の肉料理に添えられる。繊細に味付けされたひき肉のやわらかな食感は、マッシュルームやディルのクリーミーなソースとよく合う。もちろん、山盛りのマッシュポテトと共に召し上がれ。
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ジャガイモとサワーミルクを用いた伝統的なパン。写真:Tomasz Stańczyk / AG
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コロナ禍では「ステイホーム」の号令下、世界中の人が読書やNetflix視聴、ワードローブ整理、手のかかる料理をするようになった。ポーランド人はと言うと……パンを焼くようになった。コロナ禍のポーランドでは、家代々の秘伝のレシピや、サワードゥのパンを作るための酵母を入れた瓶の画像を共有する人たちでSNSが溢れかえった。このサワードゥのパンは私たちの伝統であり、ポーランドの国民的な誇りでもある。パンとバターは世界中で愛されているが、パリッとした皮のライ麦サワードゥのパンにバターを塗った一切れには、ポーランドならではの何かがある。少なくとも、私たちにはそう思われる(ポーランド人はこの点で愛国心が強いので、そう思わせておいてほしい)。
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イーストケーキ。料理フェスティバル「Smaki Regionów(地域の味)」決勝戦、ポーランド北東部の街、ビャウィストク。写真: Agencja Wschód / Forum
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とは言え、ポーランド人が焼くのはパンだけではない!コロナ禍の当初、スーパーマーケットの棚からはパスタや米だけでなく、小麦粉やイーストも消えた。クルションカ(kruszonka)〔シュトロイゼル。小麦粉、バターと砂糖を混ぜて作る、ソボロ状のトッピングで、焼いた時のカリカリした食感を楽しむ〕を散らし、バターやジャムをたっぷり乗せた焼きたてのイーストケーキの香りほど、癒されるものはないだろう。イーストケーキの香りは、バプチャ(babcia)〔おばあちゃん〕の笑顔のような、休暇のような、庭をはだしで駆け回った頃のような香りがする。つまり、幸せの香りだ。
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ベリー入りブディン。写真:Karol Makurat / Reporter / East News
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パンやケーキを焼くには時間と手間(それ自体が心地よく、癒しの効果も期待できる)が必要だが、すぐにできる、手軽な楽しみこそ必要!という時もある。ここで登場するのがブディン(budyń)だ。ほんの5分混ぜるだけで、甘くてとろける、ミルキーなおやつ(デザートかも)ができ上がる。このブディンはカスタードと非常によく似たスイーツで、ポテトスターチ、砂糖と香料を温めたミルクと合わせて火にかけ、とろみが出るまで2-3分混ぜて作る。特に人気があるのはバニラ味とチョコレート味。自分で作るのが面倒だったら、市販の袋入りミックスを使ってもよい。ボウルに入った「愛」の味を楽しんでほしい。
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プタシェ・ムレチュコ。写真:Marek Wiśniewski / Puls Biznesu / East News
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チョコレートに魔力があるのは間違いない。悲しみを感じる時、世界中の人々が、マグネシウムとエンドルフィンに満ちたこの美味しいお菓子に頼ってきた。もっとも、チョコレートの好みは各国で異なる。ポーランドでもっとも人気があるのは、トルチク・ヴェドロフスキ(torcik wedlowski)(ポーランドで1番有名なチョコレート製造会社の人気商品で、手書きのデコレーションと切り口が美しい、何層にも重ねられたウエハースのチョコレートがけ)、プリンス・ポロ(Prince Polo)(ポーランドでもっとも人気のあるチョコレートバー。これもウエハースなのが興味深い)、プタシェ・ムレチュコ(ptasie mleczko)(マシュマロのようなふわふわした中身が入ったチョコレート菓子)と、プラムのチョコレートがけだ。これらのお菓子を2つか3つ口に入れればすぐ、心配は嘘のように消え、物事が全てうまく回るようになると思えるに違いない!
執筆:ナタリア・メントラク=ルダ(Natalia Mętrak-Ruda)、2020年4月、最終改訂:2021年5月19日
日本語訳:柴田恭子(Yasuko Shibata)、2025年8月