鉱泉地に行こう!ポーランド鉱泉地の建築
ポーランド保健省のデータによれば、ポーランドには45の鉱泉地が存在する。治癒効果が期待される気候や、固有の鉱泉物質を含んだ天然鉱床を持つ地域・場所が認定されている。治療の施術のみならず、興味深い建築が魅力の、ポーランドの鉱泉地を紹介する。
ロンデク=ズドゥルイ。写真:Mirosław Jarosz / Forum
ポーランドの45の鉱泉地は、低地、沿岸部、山麓、山岳地帯に分けられ、地下鉱泉も一つ存在する。規定では、鉱泉地には病院や療養所、そして天然の鉱泉資源を活用するための設備を整える必要があり、興味深い建築が生まれた。ポーランド鉱泉地の建築をさっそく見ていこう。
チェホチネク
チェホチネクの塩水濃縮壁。写真:Wojciech Wojcik / Forum
ポーランド中北部、クヤヴィ=ポモジェ県のチェホチネク(Ciechocinek)は、おそらくポーランドで最も有名な鉱泉地。その1番の魅力はミネラルウォーターだ。ここではヨウ素を含んだ塩水を飲み、塩水濃縮施設(tężnia solankowa)〔塩水から水分を蒸発させて塩分濃度を上げる、蒸発促進施設。木材とスピノサスモモの枝で作られ、もとは食塩製造に用いられた。5年~10年で枝がミネラル塩に覆われ、交換される〕の周辺では、蒸発する塩水の成分を吸入できる。
チェホチネクでは18世紀後半に治癒効果のある鉱床が発見され、1824年に塩水濃縮施設が設置された。大戦間期に自然療養所が建てられ、それ以来、非常に人気のある鉱泉保養地だ。町の建物の大部分は1920年代・1930年代に建設された。19世紀前半に建てられた3つの歴史的な塩水濃縮施設のほか、大戦間期のヴィラやペンション、また「ワジェンキ(Łazienki, 浴室)」と呼ばれる、19世紀末〜20世紀初頭の新ロマン主義・新古典主義様式の、壮大で装飾的なサナトリウム建築群も見逃せない。
ウストロン=ザヴォジェ
ウストロン=ザヴォジェの療養リハビリ地区。写真:Wojciech Kryński /Forum
ポーランド南部、シロンスク県に位置するウストロン=ザヴォジェ(Ustroń-Zawodzie)の療養リハビリ地区は200ヘクタールの広さを誇り、ヨーロッパで最も興味深い保養施設の一つ。1960年代末から1970年代にかけ、ウストロン(Ustrón)―ヴィスワ(Wisła)―シュチルク(Szczyrk)鉱泉保養地の一部として建てられた。工業地、シロンスクの大工場で働く工員たちを念頭に、1958年から拡張された地帯である。巨大な複合施設には、病院、自然療養所つきサナトリウム、17の療養リハビリセンター、散策ホール、飲泉ラウンジ〔治療用の鉱泉水を飲むことのできる談話社交場〕、映画館を始めとする施設があり、7,000人の療養者を同時に収容できる。この地区は、ヘンリク・ブシュコ(Henryk Buszko)、アレクサンデル・フランタ(Aleksander Franta)とタデウシュ・シェフチク(Tadeusz Szechczyk)率いる、カトヴィツェ総合建築設計事務所によって設計された。この複合施設で最も特徴的なのは、建築家たちによってピラミッド型に設計された、療養リハビリセンター群だ。ルヴニツァ山(Równica)の斜面に点々と置かれた建物は、遠くから見ると、山岳地方の風景によく登場する岩を思わせる。この複合保養施設の独特な建築については、2017年にエヴァ・チュシュチョンカ(Ewa Trzcionka)のドキュメンタリー映画『Uzdrowisko. Architektura Zawodzia(鉱泉地――ザヴォジェの建築)』が制作された。
ロンデク=ズドゥルイ
ロンデク=ズドゥルイの鉱泉公園とヴォイチェフ自然療養所。写真:Marek Maruszak / Forum
「ロンドンなんていう街はない。あるのはロンデク、ロンデク=ズドゥルイ(Lądek-Zdrój)です」――スタニスワフ・バレヤ(Stanisław Bareja)監督の映画『Miś(ミシ)』(1981)で、郵便局員の女性がこう言う。ポーランド南部、下シロンスク地方のリゾート地は、映画のセリフで有名なだけではない。山岳地帯の気候と治癒効果のある数多くの水源は、何世紀もの間、療養者をこの地に惹きつけてきた。ヨーロッパで最も古い鉱泉地の一つで、ロンデクにある療養施設の大部分は18世紀と19世紀に建てられている。華やかに装飾され、多様な建築様式を組み合わせた建物は、訪れる者に時の流れを遡らせ、歴史小説から切り取られたような、古くからの、本物のリゾート地の趣を感じることができる。街で最も美しい建物の一つが、新バロック様式の「ヴォイチェフ鉱泉(Zdrój Wojciech)」。内部の見事な鉱泉プールは一般に開放されている。ここにはぜひとも入ってみたい。
クリニツァ=ズドゥルイ
クリニツァ=ズドゥルイの旧鉱泉館。写真:Anatol Chomicz / Forum
ツベル(Zuber)、スウォトヴィンカ(Słotwinka)、ヤン(Jan)、ユゼフ(Józef)――これらは治癒効果のあるクリニツァ=ズドゥルイ(Krynica-Zdrój)の水源から採取されたミネラルウォーターの銘柄で、ボトル詰めされた製品をポーランド全国で買うことができる。とは言え、19世紀に建てられた旧鉱泉館(Stary Dom Zdrojowy)や、モダニズム様式でガラス張りの中央飲泉ラウンジ(1969年設計)で飲む水の味は格別だ。ポーランド南部、マウォポルスカ県に位置するクリニツァ=ズドゥルイは、クリニツァ・グルスカ(Krynica Górska)つまり「山のクリニツァ」として知られ〔クリニツァは文語で「湧泉」の意〕、ポーランド北部、ポモジェ県のクリニツァ・モルスカ(Krynica Morska)、「海のクリニツァ」と区別されている。街には戦前のヴィラや1960年代の別荘が並び、そこかしこに見事な建築が点在する。1932年にオペラ歌手・俳優のヤン・キェプラ(Jan Kiepura, 1902-1966)が依頼し、ボフダン・プニェフスキ(Bohdan Pniewski, 1897-1965)の設計で建てられたホテル「パトリア(Patria)」や、木造で青に塗られた「ヴィラ・ロマヌフカ(Willa Romanówka)」が例に挙げられる。後者は現在、クリニツァで生まれてこの地を制作の拠点とした画家、ニキフォル(Nikifor, 1895-1968)の博物館になっている。
クドヴァ―ポラニツァ―ドゥシュニキ
クドヴァ=ズドゥルイ飲泉ラウンジ。写真:Krzysztof Kuczyk / Forum
下シロンスク県には治癒効果のある天然資源が非常に多く、ポーランド全土45のうち、11もの鉱泉地が存在する。中でもクウォツコ盆地(Kotlina Kłodzka)には、健康増進効果のあるミネラルウォーターを生む、豊かな鉱床を持った3つの鉱泉地が隣接する。クドヴァ=ズドゥルイ(Kudowa-Zdrój)、ドゥシュニキ=ズドゥルイ(Duszniki-Zdrój)とポラニツァ=ズドゥルイ(Polanica-Zdrój)のうち、最も長い歴史があるのはポラニツァ=ズドゥルイ。16世紀末、イエズス会士が鉱泉水の効能を発見した。
塩・ヨウ素の洞窟「ガロス(GALOS)」。写真:Andrzej Sidor / Forum
現在、3つのリゾート地は全て、地域全体が歴史的建造物として登録されている。主に19世紀にできた建物だけでなく、都市計画そのものも貴重だからだ。ドゥシュニキ=ズドゥルイでは毎年、有名なショパン音楽祭が開催されている。また、製紙博物館では、自分で手漉き紙を作ることもできる。
ナウェンチュフ
ナウェンチュフ鉱泉公園。写真:Marek Maruszak / Forum
ポーランド東部、ルブリン近くに位置するナウェンチュフ(Nałęczów)は、19世紀末以降、非常に有名になった場所。この鉱泉地をとりわけ愛するのは……作家たちだ。ボレスワフ・プルス(Bolesław Prus, 1847-1912)、ボレスワフ・レシミャン(Bolesław Leśmian, 1877-1937)、マリア・クンツェヴィチョヴァ(Maria Kuncewiczowa, 1895-1989)、ヤロスワフ・イヴァシュキェヴィチ(Jarosław Iwaszkiewicz, 1894-1980)といった面々が好んで訪れ、英気を養った。ヤン・コシュチツ=ヴィトキェヴィチ(Jan Koszczyc-Witkiewicz, 1881-1958)が設計したヴィラにはステファン・ジェロムスキ(Stefan Żeromski, 1864-1925)が住み、現在はジェロムスキ博物館になっている。19世紀末、田園都市の理念に沿って開発されたこじんまりとした町には、保養地のヴィラに典型的な、木造の歴史的な建物が多いが、現代建築の愛好家向けの興味深い建物もある。2004年から2005年にかけて建てられた、水療法センター(Centrum Hydroterapii)とナウェンチュフ・フォルトゥナト療養所(sanatorium Fortunat w Nałęczowie)の療養棟は、どちらもミニマリスト建築家、ボレスワフ・ステルマフ(Bolesław Stelmach)の設計。
ウニェユフ
ウニェユフ温泉。写真:www.termyuniejow.pl
ポーランド中部、ウッチ(Łódź)近くに位置するウニェユフ(Uniejów)は、2012年に認定された、ポーランドで1番若い鉱泉地。鉱泉資源は地熱水で、1978年に温泉が発見された。入浴により、リューマチ、皮膚病、神経系疾患や整形外科的疾患の治療に効果を発揮する。ウニェユフ温泉の水温は摂氏68度。硫黄、塩化銅、鉄や塩化ナトリウム、またヨウ化物イオンやフッ化物イオンなど、多くの貴重な成分を含んでいる。ウニェユフの温泉施設が一般に初公開されたのは2008年。その4年後には、治療のための入浴のほか、療養が目的ではない人を対象に、リラクゼーションや娯楽の提供も始まった。地熱水は、地元のスポーツセンターでグラウンドの地温を上げるために使われている。ここの芝生が青々としているのはそのため。
カミェン・ポモルスキ
カミェン・ポモルスキ鉱泉の自然療法センター。写真:Robert Stachnik / 西ポモジェ県知事執務室
筋骨格系疾患、神経系疾患、循環器系疾患やリュウマチ性疾患の治療に用いられる塩水と泥――ポーランド北西部の西ポモジェ県は、これらの鉱泉資源に恵まれている。海に近い町、カミェン・ポモルスキ(Kamień Pomorski)はヂヴナ海峡(Dziwna)の入江に位置し、二つの潟(ラグーン)に挟まれた、風光明媚な土地。ここでは早くも9世紀には漁村が存在し、12世紀に司教座が置かれた。中世の都市計画、ロマネスク・ゴシック様式の共同大聖堂やルネサンス様式の司教館、19世紀の公共建築に至るまで、古い時代の歴史的建造物がこの鉱泉地にたくさんあるのはそのため。カミェン・ポモルスキでは、1964年から国際オルガン音楽祭が開催されている。大聖堂のバロックオルガンは、ヨーロッパでも最も美しい音色を奏でる楽器の一つだ。
ヴィエリチュカ
ヴィエリチュカ岩塩坑。写真:Szymon Łaszewski / Forum
クラクフ近郊、観光客に人気の稀有な歴史的建造物、ヴィエリチュカ(Wieliczka)岩塩坑は、ユネスコ世界遺産に登録された貴重な技術遺跡であるだけではない。ここは同時に、ポーランドで唯一の……地下にある鉱泉地でもある。ヴィエリチュカの塩水浴に治癒効果があることは、19世紀に既に知られており、1839年に塩水浴場が設置された。1958年、鉱山医師ミェチスワフ・スクリモフスキ(Mieczysław Skulimowski, 1930-1982)の発案で喘息患者のために地下療養が開設され、今日まで呼吸器系疾患の治療に用いられている。地下100メートル以下の岩塩坑室に滞在するだけでも、呼吸器系に良い効果があるという。
コンスタンチン・イェジョルナ
コンスタンチン・イェジョルナの塩水噴霧塔。写真:Borys Czonkow / East News
コンスタンチン・イェジョルナ(Konstancin-Jeziorna)はポーランド最大の都市、ワルシャワの近郊に位置する、珍しい鉱泉地。ここで鉱泉公園(Park Zdrojowy)を散歩し、塩水濃縮施設のそばで放出されるアエロゾル成分を吸い込んでいると、ワルシャワから近いことを簡単に忘れてしまう。マゾヴィツキ県唯一の鉱泉地、コンスタンチン・イェジョルナには、療養所がたくさんあるとともに、著名人が多く住んでいる。街を散策すれば、20世紀初頭に建てられた療養所の洗練された建物や、豪華で現代的なヴィラも見つかるはず。
執筆:アンナ・ツェメル(Anna Cymer)、2017年8月
日本語訳:柴田恭子(Yasuko Shibata)、2026年7月