映画評論家が教えてくれる、ポーランド映画を楽しむためのTIPS!
ポーランド映画のことをもっと知りたい!というCulture.plの読者のために、映画評論家の遠山純生さんが初心者にもわかりやすくその歴史と魅力を解説してくれた。
激動の歴史と切り離しがたい映画たち
photo: Pixabay
ほかの多くの国々と同じく、ポーランドにおいても映画上映・映画館の設立・独自の撮影機材の開発が、すでに1890年代の段階でおこなわれていた。つまりポーランドの映画もご多分に漏れず、20世紀以降の歴史的進展のなかで独自の発展を遂げたのだった。もちろん中欧の小国の一つとして常に周辺国に脅かされ、歴史に翻弄されてきたポーランドのことなので、その映画史も一筋縄ではいかない。そもそも映画黎明期にあたる19世紀末のポーランドは、隣接するロシア、プロイセン、オーストリアの三列強に三度にわたって国土を分割された結果、「国家」として存在していなかったのだ。その後、1918年の独立回復、二度にわたる世界大戦、社会主義体制化、“連帯”の勃興と戒厳令、民主化、EU加盟と、ざっと眺めただけでも平穏からはほど遠い現代史のなかから生まれてきた映画たちは、否応なしに自国の変転をその主題のみならず語り口にも反映することになる。
“ポーランド派”というエポックメーキング
アンジェイ・ワイダ監督(1926-2016)©️Maciej Komorowski
そうしたなか、社会主義政権下の1948年に設立されたウッチ映画大学の存在は、現代ポーランド映画を語るに際して欠かすことができない。商業性重視の娯楽作でも社会主義リアリズムでもなく、作家主体のより芸術性の高い作品が生まれる土壌を準備し、ポーランド映画史上重要な映画人の大半を輩出したこの学校と、1950年代半ばに発足した映画製作プロダクション制度の連携が、世界的に有名な“ポーランド派”の台頭を準備することになる。スターリン死去後の“雪解け”による比較的自由な雰囲気のなかで、ワイダやムンクやクッツやカヴァレロヴィッチといった監督たちが、社会主義の締めつけを巧みに交わしながら新しいタイプの映画を作り始めたのだ。
左:カジミェシュ・クッツ監督(1929-2018)、右:アンジェイ・ムンク監督(1929-1961)
「暗号」を読み解く楽しみ
アンジェイ・ワイダ監督『灰とダイヤモンド』
ただしソ連の衛星国だった当時のポーランドには厳しい検閲の壁が存在していたのも事実で、そのため彼ら若手作家は検閲の目を逃れるべく間接的な表現に頼ることもしばしばだった。その結果、言外に含むところの多い、ある種の詩を思わせる語り口が採用されることが多くなったのである。そして同様の方法は、“ポーランド派”以降の、作風がさらに多様化した世代においても、野心的な作家たちに継承されることになる。こうした傾向は、映画表現を拡張しこれを豊饒なものとした反面、とりわけ外国人にとっては一見したところわかりにくいものと映ることも少なくない。個性的で謎めいた魅力をたたえ、観る側の知的好奇心を刺激するポーランド映画には、この国をめぐる特殊な状況を学びながら秘められた「暗号」を読み解く楽しみがたっぷり残されているということだ。
貴重なポーランド映画祭
『セルロースCeluloza』撮影中のイェジー・カヴァレロヴィチ Jerzy Kawalerowicz、1953、©️Mieczysław Biełous
2012年より開始されたポーランド映画祭は、まず未公開作も数多く含めた“ポーランド派” 全盛期の作品を中心にプログラムを組んで好評を博した後、徐々に1970年代~2000年代の映画を上映作に加えつつ、新作ポーランド映画紹介にも力を入れるようになっていった。上映機会が限られており、また国内ソフト化作品もごく少ないなかで、戦後ポーランド映画の歴史を振り返りつつポーランド映画界の最新動向も垣間見ることができるこの映画祭の存在意義ははかり知れない。監修者のイエジー・スコリモフスキをはじめ本国の関係者や日本の専門家が登壇するトークショーも併せて聴講すれば、この国の歴史的・社会的・文化的背景を知ることができ、観賞に厚みをもたらしてくれるはずだ。
イエジー・スコリモフスキ監督 今回の映画祭では『バリエラ』を上映
映画祭2019を存分に楽しむために
検閲の軛から解き放たれた民主化以後のポーランド映画には、監督ではなく製作者主導の、ハリウッドの商業映画に刺激を受けたある種のジャンル映画や、平凡な市民の日常を政治性抜きで描いた映画も増えており、かつてより親しみやすくなっている一方、もちろん「作家」による歯ごたえのある硬派作品も作り続けられている。
パヴェウ・パヴリコフスキ監督『COLD WAR あの歌、2つの心』©️Łukasz Bąk/Kino Świat
喜劇、政治スリラー、伝記ドラマ、ドキュメンタリーなど多彩な作品が集まった今回上映の最新作のなかでは、たとえばベテラン監督バヨンの『執事の人生』や、オスカー監督パヴリコフスキの『COLD WAR あの歌、2つの心』などが、ポーランド史を踏まえて観ることでより味わい深くなるたぐいの映画だ。新規上映の旧作には、“ポーランド派”世代でありながら政治性の希薄な独自の幻想的世界を構築した異色作家ハスの代表作の一つ『人形』や、80年代の戒厳令下で製作され、体制に対する異議申し立てを明確に打ち出して上映禁止処分に遭った『尋問』など、すでに世界的に評価の確立した秀作群も含まれている。これを逃せば観賞のチャンスが再びめぐってきそうにない作品も数多く含まれているうえに、未知の才能を発見するまたとないチャンスを提供してくれる映画祭でもあるのだ。
ヴォイチェフ・イエジー・ハス監督『人形』
執筆:遠山純生
編集:YNA 2019.11.18