ピエロギ・ルネサンス ――進化し続けるポーランドの名物料理
小さな円型に切り抜いたり押し伸ばしたりした生地に具を包み、美味しく茹であげる、という発想はポーランドで誕生したものではなく、中国からロシアを経由しヨーロッパに伝わった説が濃厚だ。とはいえ、ピエロギはポーランドの誇りともいえる一品で、おそらくポーランド料理としては世界で最も知られているメニューであろう。その世界的知名度の高まりにより、現在新たなピエロギのバリエーションが次々と出現し、「何をもってピエロギとするか」の定義も日々進化しつつある。
ピエロギの歴史

クラクフ・ピエロギ・フェスティバル。写真:Tomasz Wiech / AG
ピエロギ・ビギナーのために、名前の由来から説明しよう。実はポーランド語でピエロギ(pierogi)という名前は既に複数形で、これにさらに「s」を付ける必要はないため、英語話者は混乱するかもしれない。単数形、ひとつだけの場合は「ピエルク(pieróg)」となる。語源は明らかにされていないが、ポーランドの民族学者・言語学者であるアレクサンデル・ブリュクネル(Aleksander Brükner, 1856-1939)によると、古代スラヴ語で「饗宴」を意味する「ピル(pir)」という語に由来するとのこと。言葉としては17世紀ごろの書物に最古の記録が残っているが、料理としてポーランドの地に伝わったのはもっと前のことである。伝説によれば、13世紀に聖ヤツェク・オドロヴォンシュ(Jacek Odrowąż, 1183-1257)がタタール侵攻後のクラクフで貧しい住民にピエロギを振舞い、「ピエロギの聖ヤツェク」と呼ばれるようになったとのこと。
当初、塩味で具が詰められたピエロギは特別な機会にのみ作られ、様々な形があった。結婚式で頻繁に出された「クルニキ(kurniki)」というピエロギは、鶏肉やソバの実・キビ等の穀物、キノコを包んだ大きなドーム型のもの。葬儀の席では、ソバの実、チーズ、ジャガイモなどを包んで焼いた「クヌィシェ(knysze)」が振舞われた。これはアメリカのユダヤ人コミュニティでとても人気のあるピエロギで、ウディ・アレンの映画にも「knishes」として出てくる。また、「名前の日」〔キリスト教文化で自分の名前と同じ聖人に割り当てられた日。誕生日のように盛大に祝う〕のお祝いで出される甘い「サニェシュ(sanież)」や「ソチュニェ(socznie)」もピエロギの仲間であり、クリスマスイヴの定番スープ「バルシュチュ(barszcz)」と一緒に振舞われるキノコ入りの「ウシュカ(uszka)」はミニサイズのピエロギと言えよう。ザワークラウトの入ったピエロギもクリスマスのメニューとして知られているが、実際には季節を問わず一年中食べられている。1682年にクラクフで刊行されたスタニスワフ・チェルニェツキ(Stanisław Czerniecki, ca. 1630-?)によるポーランド最古の料理本『Compendium Ferculorum(ラテン語で「料理の手引き」)』には、仔牛の腎臓を詰めたピエロギや、イースト生地にバラやニワトコのジャムを包んだ甘いピエロギのレシピが掲載されている。同書は2009年に歴史家のヤロスワフ・ドゥマノフスキ(Jarosław Dumanowski)により再刊行された。

イェジ・ノガル氏による「さくらんぼ、赤ワインとはちみつのピエロギ」。写真:forumgwiazd.com.pl / Forum
サミュエル・オルゲルブラント(Samuel Olgerbrand, 1810-1868)は1865年の『Encyclopedia(百科事典)』でピエロギを次のように定義している:
イースト生地を用いた料理・焼き菓子全般の俗称。かつてのポーランド料理においては様々な種類に分類されていた。チーズや肉を薄く伸ばした生地に詰めたもの、生地に火を通さず生の羊肉と少量のラードを包んだタタール風コウドゥヌィ(kołduny tatarskie)などがあり、特に後者は、肉によく火が通り、肉汁と脂が生地の中におさまるよう巧妙に下準備されている。イースト生地にチーズやジャムを包んだルーシ風ピエロギ(pierogi ruskie)や、ザワークラウトが入ったリトアニア風ピエロギ(pierogi litewskie)はよく知られている。これらはすべて、ポーランド料理の一部となっている。
ピエロギの基本的な概念は今も変わっていないが、今日に至るまで150年ほどの間に大きな進化を遂げた。現代版ルーシ風ピエロギは、カッテージチーズ(ポーランド語でトファルク(twaróg)や白チーズ(biały ser)と呼ばれる)、ジャガイモと炒めた玉ねぎを包んだもの。ザワークラウトとキノコが入ったものや、肉を包んだものもポーランド料理の定番であることに変わりはないが、生地はシンプルで、小麦粉と水に、卵または牛乳を用いるのみ。茹でたあとは炒めた玉ねぎ、もしくはベーコンチップを添えて食卓に出される。
未来のピエロギ?

カトヴィツェのピエロギ専門店「Vena」で提供されている様々な創作ピエロギ。写真:Dawid Chalimoniuk / AG
チーズとジャガイモ、ザワークラウトとキノコ、肉という、いわば「聖なる三位一体」は変わらず人気を誇っているが、最近のポーランドでは異国由来の具材を使った実験的な試みも多い。ほうれん草とフェタチーズはとてもよく見られる組み合わせで、秋には旬のあんず茸が大人気。グルメ層向けにサーモンや白身魚を具としたものも出現している。また近年ヴィーガンの食文化が広まり、豆腐やそら豆、キビ、カボチャなどがチーズや肉の代わりとして用いられるようにもなってきた。2016年のクラクフ・ピエロギ・フェスティバルでは、鴨肉とアプリコットを用いたピエロギが優勝者として見事、聖ヤツェク像のトロフィーを勝ち取った。
具材の組み合わせとしては奇妙に思えるものでも、実は伝統的な郷土料理だったりする。ポーランド東部、ルブリンの街では、ソバの実またはレンズ豆にミントを加えた具がある。南東部のポトカルパチェ地方ではセモリナ粉(粒の荒い小麦粉)のミルク粥「カシャ・マンナ(kasza manna)」をカスタード状にしたものが具として用いられ、北東部ポドラシェ地方のタタール人の村、クルシニャニ(Kruszyniany)では蒸したピエロギが今でも伝統として受け継がれている。蒸しピエロギとしてはジャガイモを卵と混ぜた「カルトフラニキ(kartoflaniki)」や、ジャガイモ、肉、ニンジン、パセリを混ぜた「イェチュポチュマキ(jeczpoczmaki)」などがある。

タタール風ピエロギ。写真:Michał Kość / East News
ポーランド国内でも多様性を感じられるメニューは多くあるが、特に突拍子もない味やびっくりするようなピエロギの新たな伝統のいくつかは、異国の地で誕生した。これらが主にアメリカやカナダで見られるのは、多くのポーランド系・ウクライナ系移民が定住したシカゴ、バッファロー、デトロイトといった都市でピエロギの存在が広く知られるようになったからである。
ジョージア州ローレンスビルやインディアナ州ホワイティングでは、クラシックなピエロギのほか、スイートポテトやチェダーチーズ&ハラペーニョなどの具材を使ったアメリカンな創作ピエロギを楽しめるフェスティバルが開催され、「ミス・ポンチキ(Miss Pączki)」(ポンチキ=ポーランドの揚げドーナツ)や「ポルカホンタス(Polkahontas)」(ポーランド人女性を意味する「ポルカ(Polka)」をディズニー映画で有名なネイティヴアメリカン女性「ポカホンタス(Pocahontas)」と掛けた名前)などのキャラクターに出会える場所となっている。
ピッツバーグはアメリカにおける「ピエロギの首都」とも言われ、ここでは野球のメジャーリーグチーム、ピッツバーグ・パイレーツが「グレート・ピエロギ・レース」を主催している。アメリカ最大手ピエロギメーカーのMrs. T’sがスポンサーとなり、ポテト・ピート(Potato Pete)、ハラペーニョ・ハンナ(Jalapeño Hannah)、チーズ・チェスター(Cheese Chester)、ザワークラウト・ソール(Sauerkraut Saul)、/オリヴァー・オニオン(Oliver Onion)、ベーコン・バート(Bacon Burt)、ピッツァ・ペニー(Pizza Penny)ら、6体の巨大なピエロギの着ぐるみたちのレースが繰り広げられる。スポンサーのMrs. T’sは、もともとテッド・トウォージク(Ted Twardzik, 1927-2016)という人物が、母親の作るピエロギを世間に広めたいと考え、ビジネスとして立ち上げたのが出発点となり、1952年に創業された。ピッツバーグでは、チーズとジャガイモを包んだ伝統的なピエロギが、なんとチョコレートに覆われているものまで作られている。
ピエロギはカナダでも人気が高い。1993年にはアルバータ州の小さな村、グレンドンにて、ピエロギにフォークが刺さった巨大なモニュメント「Giant Perogy」が設置された。ピエロギ(pierogi)をperogyと表記する例は北アメリカでよく見られ、このモニュメントの名前にも使われている。

ピエロギの名前が付いた公園「Glendon Perogy Park」、写真:glendonpark.com
ピエロギを食べることに、スピリチュアルな価値を見出す人々もいる。オハイオ州ポイント・プレイスのドナ・リー(Donna Lee)という人物は、2005年のイースターに際し作ったピエロギにイエス・キリストの顔を見たと主張し、そのピエロギを食べずeBay(アメリカ発祥のオークションサイト)で売却。1,775ドルの価値が付き、見事落札された。ここまでくると、ピエロギが文字通り真の宝になっていると言っても過言ではない。
執筆:ナタリア・メントラク=ルダ(Natalia Mętrak-Ruda)、2017年7月4日(2025年7月24日改訂)
日本語訳:川本夢子(Yumeko Kawamoto)、2025年8月23日