『地下水道』Kanał(1956年)
『地下水道』 Kanał(1956年),監督:アンジェイ・ワイダ(Andrzej Wajda),撮影:Polfilm
物語は、ワルシャワ蜂起56日目となる1944年9月25日、ワルシャワのモコトフ区に始まる。ポーランド国内軍はドイツ軍に追い詰められ、絶望的な最終局面にあった(蜂起は63日の戦闘の末に大敗する)。ザドラ中尉は、ドイツ軍包囲の突破に失敗したパルチザン中隊の隊員たちに対し、地下水道を通って、未だ戦闘が続く市内中心部に出るよう命じる。暗黒の入り組んだ地下水道を汚水に浸かりながら隊員たちが移動する中、ドイツ軍は手榴弾を手にしてマンホールを監視している。負傷したコラブと彼を助けるデイジーがようやく出口を見つけたと思ったものの、それが河へ注ぐ通路だと分かる場面は、ポーランド映画屈指の名シーンである。
『灰とダイヤモンド』Popiół i diament(1958年)
2000年アンジェイ・ヴァイダ(Andrzej Wajda)がアカデミー名誉賞を受賞した際にプレゼンターを務めたジェーン・フォンダの言葉を借りれば、『灰とダイヤモンド』は、デビュー作の『世代』(1955)と『地下水道』(1956)とともに「ポーランドの若者たちに対する戦争の影響を考察した、力ある三部作[抵抗三部作]」の一部である。イェジ・アンジェイェフスキ(Jerzy Andrzejewski)が1948年に発表した同名小説の映画化。舞台は第二次世界大戦末期、二人の元ポーランド国内軍兵士が、現在は反共産党の地下運動を行っている。共産地区委員長暗殺の指令を得た二人は、戦死した同志を想い、戦いが終わった後の自分たちの未来に疑問を抱く。
『夜の終りに』Niewinni czarodzieje(1960年)
『夜の終りに』は戦時中を題材としないヴァイダ最初の映画である。ジャズ時代、戦後のポーランドで目的を喪失し、空しい毎日を過ごす若者たちの姿を描いた。映画はヌーヴェルヴァーグのスタイルを踏襲している。原題の「Niewinni czarodzieje(無邪気な魔術師)」は、アダム・ミツキェヴィチ(Adam Mickiewicz)の『祖霊祭Dziady』の引用だが、同じライフスタイルを持つ様々な職業の人々を指している。ワルシャワの流行のバーで夜を過ごし、ジャズを愛し、束縛を嫌う人々だ。戦後の気楽な世代をヴァイダは抑制的に描いている。現代のライフスタイルに不信感を抱きつつも、浅い道徳観に陥っていない。概して主人公たちは好感が持て、彼らの皮肉な生存戦略は、変化する社会状況に対する一つの答えに過ぎない。美しい音楽はクシシュトフ・コメダ(Krzysztof Komeda)の作曲。
『すべて売り物』Wszystko na sprzedaż(1969年)
ベアタ・ティシュキエヴィッチ(Beata Tyszkiewicz), アンジェイ・ワピツキ (Andrzej Łapicki)『すべて売り物』 Wszystko na sprzedaż(1969年),監督:アンジェイ・ワイダ(Andrzej Wajda),撮影:Studio Filmowe Zebra / Filmoteka Narodowa / www.fototeka.fn.org.pl
この映画は『灰とダイヤモンド』、『夜の終りに』など数本のヴァイダ映画に出演した後、事故で早逝した俳優ズビグニェフ・ツィブルスキ(Zbigniew Cybulski)へのオマージュとして制作された。プロットはメタレベルで解き明かされる。映画の主役がセットに現れず、行方不明の俳優の捜索が始まる。俳優を取り巻く謎めいたオーラはいかに打ち破ることが可能か?何が現実で何がただの伝説か?撮影班の「捜査」では満足いく答えは得られず、事実と神話の境界は曖昧だ。異なる語りの層を混在させることで、ヴァイダは映画と人生、フィクションの世界と現実の世界を分けることがいかに難しいかを示している。
『婚礼』Wesele(1973年)
『『婚礼』Wesele(1973年),監督:アンジェイ・ワイダ(Andrzej Wajda),撮影:Zebra Film Studio / Filmoteka Narodowa / www.fototeka.fn.org.pl
スタニスワフ・ヴィスピャンスキ(ヴィスピアンスキ)(Stanisław Wyspiański)の戯曲を翻案した映画『婚礼』は、20世紀への変わり目におけるボヘミアン的知識人層とクラクフ近郊の村の農民たちという、二つの全く異なる世界の稀有な出会いを描いた。この遭遇は20世紀初頭のポーランド社会を覆っていたトラウマ、不安、失望についての夢幻的考察を呼び起こす。原作が持つ詩的な性質は映画化がほぼ不可能とされたが、ヴァイダは本物の賑やかな婚礼の雰囲気を映画セットで作り出すことで応えた。ダニエル・オルブリフスキ(Daniel Olbrychski)、アンジェイ・ワピツキ(Andrzej Łapicki)、マヤ・コモロフスカ(Maja Komorowska)他ポーランドきっての名優が好演。
『約束の土地』Ziemia obiecana(1975年)
『約束の土地』 Ziemia obiecana(1975年),監督:アンジェイ・ワイダ(Andrzej Wajda),撮影:Polfilm / East News
ヴァイダの大作の一つであり、アカデミー外国語映画賞に最初にノミネートされた作品。ヴワディスワフ・レイモント(Władysław Reymont)の小説を原作とし、19世紀末に繊維工業で栄えた「約束の土地」ことウッチが舞台である。国籍も育ちも異なる三人の若者: ポーランド士族でエンジニアのカロル・ボロヴィエツキ(Karol Borowiecki)、ユダヤ人実業家のモリツ・ヴェルト(Moritz Welt)、繊維工場主を父に持つドイツ人のマックス・バウム(Max Baum)は、自分たちの繊維工場を建設しようとしている。しかし複雑な陰謀と産業資本主義の非情な状況下に彼らの計画は失敗する。主人公らと同様に重要なのが都市である。重要な社会変化の渦中にある多文化のアーバン・ジャングルでは、利益だけが唯一の共通言語だ。
『カティンの森』Katyń(2007年)
1989年以降にヴァイダは『カティンの森』の脚本の執筆を開始、2007年に完成させた。この映画は1940年4月から5月にかけてソビエト内務人民委員部(NKVD)がポーランド人将校らを大量虐殺した事件を扱っている。ポーランドの知識人を一掃するためのスターリンの意図的な計画の一部であり、共産主義者の検閲下ではタブーの話題だった。「カティンの森事件」の犯罪はしかるべき調査がなされなかった。物語は戦後が舞台である。ポーランド人将校の母親、妻、娘が彼の捕虜収容所からの帰還を待っている。帰還が遅いことを心配した家族が捜索を始める。『カティンの森』はヴァイダの極めて個人的な映画の一つである。自らの父親もまたカティンの森で殺害されたからである。