CD Projektの『ウィッチャー』のプロトタイプ(試作品)に対する潜在的ゲームパブリッシャーの反応はかなり冷ややかだった。当初、主人公はゲラルトではなく、(時々ゲラルトに弾圧から助けられる)別の魔術師だった。技術的な問題やクリエイター同士のヴィジョンの違いが大きくなっていき、プロジェクト関係者の名前は万華鏡のように変わっていった。ゲームは元々短期間で開発される予定だったが、最終的にリリースされたのは5年後、2007年10月末のことだった。
しかし、ポーランドでの『ウィッチャー』の公開は大盛況で、ゲームは熱狂的に迎えられた。製作過程では紆余曲折あったものの、出来上がってみると、CD Projekt Redスタジオは、映画制作者よりずっとうまく原作の材料を扱っていたのである。サプコフスキ(Andrzej Sapkowski)のファンは胸をなでおろした。ゲームのストーリーは、小説の物語が終わったところから始まる。主人公は記憶を失っており、どうやってケィア・モルヘンの城砦に、そして都市ヴィジマ周辺に戻ってきたのか、全く覚えていない。
ポーランドのプレイヤーにとってのもう一つの楽しみ(そしてロシアなどで最初の『ウィッチャー』が成功した理由)は、地元のモチーフだった。ヴィジマ周辺の景観は東欧そのものであり、茅葺小屋はポーランドの田舎から採用され、道端には「baby pruskie(バビィ・プルスキェ *中世のプルーセン人の石像)」が佇んでいる。

『ウィッチャー』のスチル,写真:デベロッパー広報資料
西側での『ウィッチャー』の受容はやや慎重であった。まず英語へのローカライズに不備があったためだ。オリジナルの粗野な言葉が検閲され、ぎこちない言い回しだらけになり、それに確信を持てないまま俳優が演じたのだ。レビューには、プレイの妨げとなる多くの技術的問題や、ゲラルトが愛の征服の後に集める裸の女性のカードに苦情が寄せられた。しかしながら、そのエキゾチックな性質や、ファンタジー世界の暗い側面を描き出し、人種差別といった(他のゲームは無難な距離を取っていた)テーマを扱った勇気により、ウィッチャーは、未開発な部分もあるが、魅力あるゲームとしての地位を瞬く間に獲得し始め、その道の通に傑作と認められた。英語の修正などを施した拡張版がリリースされたときには、『ウィッチャー』は世界を制する準備が整っていた。

『ウィッチャー2王の暗殺者』のスチル,写真:デベロッパー広報資料
シリーズ第二弾の『王の暗殺者(Zabójcy królów/Assassins of Kings)』(2011)は、はっきりと世界のプレイヤーに照準が合わされていた。スラブ文化のローカルな雰囲気は、より普遍的なファンタジーの慣習に取って代わられた。物語も、第一作では、制作の難航が見て取れたが、第二作では随分整理されていた。ゲラルトは、第一作ではサラマンドラという闇の組織からヴィジマの街を守ったが、今回は王を次々と殺す謎の暗殺者からいくつかの王国を守る。
複雑に絡まる政治的陰謀がどの方向に展開していくかは、主人公の決断に大きく左右される。このように複数の筋書きを持つ点が、ウィッチャー第二作が他のRPGと一線を画す特徴である。それは、ある選択肢を選んだプレイヤーは、特定の場所を訪れることすらできない、といった徹底ぶりで、プレイヤーはもう一度最初からゲームをやり、別の道を選ぶしかない。
第三弾となる『ワイルドハント(Dziki Gon/Wild Hunt)』(2015)は、ポーランドのビデオゲーム史上、最重要のリリースであると同時に、RPGという難解でコストのかかるジャンルで世界屈指のヒットとなった。
第二作では、いくつかの重要な場所に限定された親密な世界を描いていたが、『ワイルドハント』では、プレイヤーの前に広大なオープンワールドが展開され、山、森、村、都市(中でも最大都市ノヴィグラドは規模と多様性が圧倒的である)といったエリアに分かれている。このような巨大な空間を創造するため、CD Projekt Redはビデオゲーム最難関と言われる製法に果敢に挑戦し、会社として未経験だったにもかかわらず、すばらしい結果を出した。
『王の暗殺者』では、ゲラルトは何より政治に関わりを持っていたが(あまりにもゲーム内の大きな要素になりすぎているという批判もあった)、『ワイルドハント』では、ゲラルトが養女シリを捜す、また元恋人で魔術師のイェネファーと再会する、といった個人的な物語が中心で、政治はあくまでその背景である。もしかすると、このゲームの壮大なダイナミズムと、ひどく人間らしい、多くは悲劇的な登場人物たちの物語を組み合わせたことが、第三部の最高の到達点と言えるかもしれない。
ゲームで極めて印象深いエピソードの一つに、「血まみれ男爵」がある。戦争によって狂わされた地元の暴君で、(アルコールが助長する)残虐性と、妻と娘に対する(時に有毒なで、時に感動的な)愛の間で揺れる人物のストーリーだ。男爵が統治しようとする土地が、次々と権力者たちに征服されてしまうように、この物語にハッピーエンドはない。