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Podsumowanie
ウディチコとメキシコ系アーティスト、ラファエル・ロサノ=ヘメルの初コラボレーションによる体験型作品、《ズーム・パビリオン》が森美術館「未来の芸術展」 で日本初公開。参加型作品として観客を楽しませていますが、その意図は?気鋭のキュレーター、山峰潤也さんがわかりやすく解説してくれました。
Content
未来を考えさせる斬新な展覧会
産業革命から急速に発展した機械産業に変わり、電子機器や情報産業の時代へと変遷していくことを見据えて開かれた「マシン/機械時代の終りに」(MoMA/1968年)から半世紀を経た今、森美術館で新しい時代のパラダイムへ先駆けた展覧会が開かれている。
この展覧会は、人工知能や生命科学、ロボテックスなど、21世紀に急速に発達する技術がもたらす時代変化を検証すべく、都市や建築、身体拡張やライフスタイル、そして新しい時代の倫理など、さまざまなテーマに訴求する大規模な展覧会で、100点を超えるプロジェクトが紹介されている。その中で、大規模な映像投影によってその土地の記憶を公共空間に呼び起こす作品で知られる世界的なポーランド人アーティスト、クシュシトフ・ウディチコ(Krzysztof Wodiczko)は、メキシコ系カナダ人アーティスト、ラファエル・ロサノ=へメルとの共作《ズーム・パビリオン》を発表。
《ズーム・パビリオン》とは監視社会が始まることへの警鐘?
《ズーム・パビリオン》は、自動解析を行う監視システムを通して得られる映像を、4つの壁面に投影するインタラクティブなビデオ・インスタレーションである。この作品では、顔認識のアルゴリズムを使用して参加者を検出し、展示空間内の位置や行動、関係性などが表示される。またそのほかの画面では、複数のズームカメラが鑑賞者を追跡し、顔が拡大されて表示されている。そのため表情の機微までもがつぶさにほかの鑑賞者と共有される。また、こうした個人の表情にフォーカスしたミクロな視点や、群像としての全体を写した俯瞰的な視点だけでなく、わずかな行動から読み取られる意識や関係性までも、機械によって分析されていることも示されている。それは、SF作家のジョージ・オーウェルが『1984』で書いたような、近未来の機械による監視社会が現実のものとして迫っていることを、見る者に意識させるのだ。
2人の国際的アーティストによる初のコラボレーション作品が問いかけることとは。
メキシコシティのメキシコ国立自治大学美術館(MUAC)で発表された本作は、二人の初のコラボレーションである。1967年にメキシコシティで生まれたラファエル・ロサノ=へメルは、山口情報芸術センター(YCAM)やバンクーバー五輪でサーチライトを用いた屋外での大規模インスタレーションを実施するなど、世界各地で作品を発表してきた。そして、戦時中の1943年、ポーランドに生れたクシュシトフ・ウディチコは、都市やそこに住む人々が抱える様々な問題をテーマに、世界各地で作品を発表し続ける現代美術作家である。国内ではヒロシマ賞受賞を記念して、原爆記念ドームにプロジェクションした作品が知られる。(作品動画はこちら)都市の歴史や空間と向き合い続けてきた世界的な二人の芸術家が作品を通して示す現代の監視技術は、人々の気づかぬところで社会基盤を作り変える技術が発達する今をいかに生きるかを問いかけている。
展覧会情報:
会期:2019年11月19日〜2020年3月29日
会場:森美術館
執筆:山峰潤也
編集:YN Associates