マグダレナ・アバカノヴィチの代表作
2017年4月21日、世界的に有名なポーランドの彫刻家マグダレナ・アバカノヴィチが86歳でこの世を去った。彼女の作品はパリのポンピドゥー・センターやニューヨークのメトロポリタン美術館、京都国立近代美術館をはじめ、世界各地の権威ある芸術機関に所蔵されている。ここでは、彼女の最も有名な作品をいくつか紹介しよう。
アバカン

マグダレナ・アバカノヴィチ《赤のアバカン(Abakan czerwony)》、1969年、写真:EFE/MG/Forum
1960年代初頭より、マグダレナ・アバカノヴィチ(Magdalena Abakanowicz)は彫刻材料として布を使用し始め、強烈な色のさまざまな繊維で織られた、空間的かつ有機的な作品シリーズ「アバカン(Abakan)」を制作する。ギャラリーの天井から吊るす形で展示されるこれらの巨大な作品は、大量生産・大量消費をテーマにしたポップアート、また素材や制作の技術ではなく主題に重きを置くコンセプチュアル・アートが幅を効かせていた時代にもかかわらず、国際舞台において彼女が活躍するきっかけとなった。1962年、アバカノヴィチの作品はローザンヌ国際タペストリー・ビエンナーレで観客と批評家たちを魅了し、3年後のサンパウロ・ビエンナーレでは金賞を受賞した。
ポーランドの著名な美術史家、理論家、批評家であるマウゴジャタ・キトフスカ=ウィシャク(Małgorzata Kitowska-Łysiak)は、次のようなコメントを残している:
《アバカン》は、アバカノヴィチの「布の彫刻家」としてのアプローチと、その素材を操る技術的視点を反映している。彼女は布という素材の柔軟性、しなやかさ、扱いやすさを活かしつつ、同時に巨大な円形の生地を用いることで、動物的な形を帯びさせている。《アバカン》は危険な印象を与え、まるで巨体のモンスターから剥ぎ取られた皮のようにも見える。これはアバカノヴィチが、神秘的な存在に対して超人的なスケールを適用したことで生み出される効果であると言えよう。
発生学

マグダレナ・アバカノヴィチ《発生学》、1978~1980年、写真:ヴロツワフ国立博物館
アバカノヴィチの最もよく知られた作品の一つは、1978年から1980年にかけて制作された彫刻インスタレーション《発生学(Embryology)》であり、現在イギリスのテート美術館のコレクションの一部となっている。手縫いで作られた、さまざまなサイズの有機的なオブジェが数百点、展示空間のあちこちに無造作に置かれたこのインスタレーションは、そのタイトルと形状から、まだ外に出て成長する準備が整っていない、繭のような生命の形態を示唆している。《発生学》は、1980年のヴェネツィア・ビエンナーレで初めて公開された。
人間の姿
マグダレナ・アバカノヴィチと彼女の作品《群衆III》、ワルシャワのウヤズドフスキ城現代美術センターでの展示、1995年、写真:Wojciech Druszcz / East News/ Reporter
マグダレナ・アバカノヴィチは作品の中で、人間とその身体、現代世界における人間の状態や位置づけといったモチーフを扱うことが多い。ジュートと樹脂(レジン)を好んで使用し、ほとんど同一の姿勢で立っている、歩いている、もしくは座っている状態の、無名の人物群を制作した。これらの作品は博物館に展示されるほか、風景の一部として設置されているものもある。代表的なものとして、以下の作品が挙げられる:
- 《変容(Alteracje)》(1974年–1975年):一列に並んだ12体の人間の中空座像
- 《頭(Głowy)》(1973年–1975年):顔のない人間の頭部を思わせる、巨大な固体のシリーズ
- 《背中(Plecy)》(1978年–1980年):人間の躯幹を模した80体のネガティブ像
- 《群集(Tłum)I》(1986年–1987年):50体の人間の立像
- 《ラガッツィ(Ragazzi)》(1990年):若い少年たちから剥ぎ取られた40体の「皮膚」〔「Ragazzi」はイタリア語で「少年たち」「若者たち」を意味する〕
1980年代から、アバカノヴィチは彫刻に青銅、木材、石など他の自然素材も使用し始めた。
ポーランドの美術史家カロル・シェンキェヴィチ(Karol Sienkiewicz)は、これらの作品について以下のように述べている:
アバカノヴィチの彫刻には顔がなく、個々の人間の特徴を決める「自主性」の要素を欠いている。顔を失ったこれらの人物像は、アイデンティティを持たず、語る権利も持たない。ひとつひとつの像を特徴づける何らかの違いはあるはずだが、それに気づくのは容易でない。重要なのは、反復性、同一性、非人格性といった要素である。個人という存在は、常に群衆の中で迷子になるが、同時に、自分の場所を群衆の中に見つけもする。
アーサー王の騎士たち

マグダレナ・アバカノヴィチ、《アーサー王の騎士たち》、写真:Włodzimierz Wasyluk
マグダレナ・アバカノヴィチの多くの作品は都市空間に設置されている。たいてい、未完成であったり、傷や苦しみを抱えていたりする身体の考察を通して、人間を比喩的または直接的に表現するものだ。イスラエルにはネゲヴ砂漠から切り出された石灰岩を用いた作品で、《ネゲヴ(Negev)》(1987年)と題された7つの石の円があり、韓国の《ドラゴンの空間(Space of Dragon)》(1988年)はブロンズでできた抽象的な動物の10個の頭から成る。日本には《背中》シリーズを思わせる《ヒロシマ・鎮まりしものたち(Zastygłe)》(1993年)と呼ばれる40体のブロンズ像、アメリカには花崗岩22個から成る《石の空間(Space of Stone)》(2002年)という作品がある。アバカノヴィチのインスタレーションの中でも最大スケールのものは、ポーランド・ポズナンのツィタデラ公園(Park Cytadela)にある《認識されない者たち(Nierozpoznani)》(2002年)と題された112体の鋳鉄製の彫刻像だ。また、ポーランド北部に位置するエルブロンク(Elbląg)という街では、アバカノヴィチが1965年の第1回空間形態ビエンナーレ(Biennale Form Przestrzennych)で制作した、木を模した鉄の作品を見ることができる。これは、一般的なギャラリー以外の環境で恒久的に設置された最初の作品として知られている。
アバカノヴィチの《アーサー王の騎士たち(Rycerze Króla Artura)》(2005年–2007年)は、それまで彼女が制作していたものとは特徴が大きく異なる。この作品は、当初はヴロツワフ国立博物館の前に設置され、その後ワルシャワのトラウグット公園(Park Traugutta)に移された。ヴロツワフ博物館の館長マリウシュ・ヘルマンスドルフェル氏(Mariusz Hermansdorfer)は、これについて「荒々しさもある一方で、物語的で詩的な性格も持ち合わせている」と述べている。アーサー王物語に登場する4人(魔法使い、パーシヴァル、ランスロット、ガラハッド)の姿が抽象的に表現されたこの作品は、それぞれ400kgもの重さがある鋼鉄で作られた巨大な彫刻である。2008年にマドリードのレイナ・ソフィア美術館でも展示された。
執筆:アグニェシュカ・スラル(Agnieszka Sural)、2017年4月25日、2021年6月18日改訂
日本語訳:川本夢子(Yumeko Kawamoto)、2025年5月30日