アートとアクティヴィズムの交差点でワルシャワをベースに活動する団体。有名な歌の歌詞の内容を「リサイクル」し、集団で音楽を聴いたり歌を歌ったりすることでコミュニティを創造する力を活かした、社会参加型のプロジェクトを展開している。
コレクティヴ・ワスキ(Kolektyw Łaski)は、ワルシャワ美術大学メディア・アート科のミロスワフ・バウカ(Mirosław Bałka)の空間活動スタジオで出会った3人のアーティスト、ユリア・ゴラホフスカ(Julia Golachowska; 1992年生まれ)、ヤゴダ・クフィャトコフスカ(Jagoda Kwiatkowska; 1991年生まれ)、下村杏奈(Anna Shimomura; 1992年生まれ)で2018年に結成された。歴史、記憶、アイデンティティをテーマにしたプロジェクトを中心に据え、芸術活動を行う団体である。コレクティヴがその作品を通して批判の主な対象としているのは、資本主義、ナショナリズム、気候変動による大災害に直面する各国政府の無策である。パフォーマンス、サウンド、ビデオなどのメディアを駆使した作品は、共に歌う、聴く、文章を書く・書き直すことで、現実社会に働きかけるというアイデアに基づいている。
コレクティヴの活動は2018年、ポーランド独立100周年とポーランド女性選挙権の獲得100周年に、《新愛国歌集(Nowy Śpiewnik Patriotyczny)》プロジェクトで始まった。歌集は、ポーランドの歴史におけるこの2つの重要な出来事を結びつけ、歴史的言説に女性の視点を組み込むことで、軍事化された国家的言説を批判的に検討したいという願望から生まれた。「ポーランドでは、幼い頃から愛国歌を歌わされます。私たちは、例えば学校の記念式典で、これらの馴染みのあるメロディーをまったく意識せずに歌っていることに気づきました。歌詞は暗記しているのに、その意味の分析はしない。そこで私たちは、これらの歌の内容を読み解き始め、それらがいかに現代から切り離され、私たちが理想とする共同体のあり方から切り離されていることに気づいたのです」とアーティストたちは言う。
『Bywaj dziewczę zdrowe(元気でいてくれ、恋人よ)』や『Wojenko, wojenko (戦争よ、戦争よ)』のような歌は、女性嫌悪、固定的な性別役割分担、外国人嫌悪、戦争・暴力や血のつながりの美化といった内容に満ちている。戦争というトラウマになるような出来事を扱っていながら、特にタフな戦士の役割を演じざるを得ない男性が、自らの苦しい感情を認め、吐露できるような余地はほとんどない。一方、女性は母親や恋人の役割に押し込められ、愛する人を悼む代わりに、彼らが国のために犠牲になったことを誇りに思うべきだというメッセージを受け取る。
そこでコレクティヴ・ワスキのアーティストたちは、元来の内容を修正した愛国歌集を作ることにした。問題を含んでいる要素は、草の根活動や平等といった価値観を表現する内容に置き換えられた。この歌集は、包括性(インクルーシヴィティ)という考えから生まれたプロジェクトである。「伝統を完全に取り払う必要はない。子供の頃からよく知っているメロディーだから、私たちの生活の重要な一部になっている。そのほんの一部を少し変えるだけで、新しい価値を吹き込むことができる」――アーティストたちはこう述べる。《新愛国歌集》プロジェクトには、原作と、コレクティヴが手を加えた2つのバージョンの曲、そしてその内容を分析した解説が収録されている。誰でもコレクティヴのFacebookページからダウンロードして印刷できるZINEとしても、YouTubeチャンネルのカラオケプレイリストとしても機能する。
コレクティヴの活動の根底には、「現実を形作る力」としての言語への洞察がある。この考え方は、《地球は未だ滅びず(Jeszcze Ziemia Nie Zginęła)》、《気候危機抗議カラオケ(Climate Protest Karaoke)》、《歴史は全てを歪める(Historia Wszystko Wypaczy)》など、その後のプロジェクトにも反映されている。前者は2020年の映像作品で、ポーランドの国歌をパロディ化し、滅びゆく地球の、いわば黙示録的なサウンドスケープとしたものだ。国歌の録音を引き伸ばし、ところどころクジラの鳴き声を思わせる、抽象的で暗いサウンドトラックを作り出している。ポーランド国歌はもとは18世紀末に成立した軍歌で、第一連は次のような内容である。
Text
ポーランドは未だ滅びず
我らが生きる限り
外敵が力で奪い去りしものは
剣をもて奪い返さん
すすめ、すすめドンブロフスキ
イタリアの地からポーランドへ
汝の指揮のもと
我ら、民衆と合流せん
コレクティヴのミニマルなビデオでは、この歌詞は次のように書き換えられている:「地球は未だ滅びず、我らが生きる限り/我らの暴力が奪ったものはもう救えない/ひびけ、ひびけ葬送曲、これは我らの孤独な嘆き/我らのせいで第6の大量絶滅期が到来」。
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このビデオ作品は、2020年にオロニスコ町にあるポーランド彫刻センター(Centrum Rzeźby Polskiej w Orońsku)で開催された第9回ユース・トリエンナーレで、マルタ・チシュ(Marta Czyż)のキュレーションにより発表された展覧会「Póki my żyjemy(我らが生きる限り)」の一環として制作された。トリエンナーレでは、コレクティヴは《Żywe obrazy. Audioprzewodnik(生きるイメージ――オーディオガイド)》と題したプロジェクトを制作した。アーティストの声が、彫刻センターのある宮殿公園を歩く人々を案内する音声ガイドである。しかし、彫刻についてではなく、アーティストたちは公園の木々について語った。このプロジェクトは、柳の木が重要な要素であるポーランドの風景を考察することから着想を得た。ポーランド柳の特徴的な切り株のような形と細い若芽は、繰り返し剪定された結果である。昔の貧しいポーランドの田舎では、驚異的な再生力で知られる柳の枝は、暖房用の燃料や織物の材料として使われていた。柳のシルエットは確かにポーランドの象徴である。しかしそれは、「『血と傷跡で』守られた『高貴な〉ポーランドではなく、農奴制で搾取された、飢えた農民のポーランドなのだ。そして同時に、種間搾取の象徴、植物に対する人間の暴力の象徴でもある。柳を植えたり剪定したりすることで形作られ、今ではロマンチックに『昔からのポーランドの景色』〉と呼ばれるようになった景観に対する、人間の影響の象徴でもある」と音声ガイドが説明する。オロニスコの公園の柳は幸運だった。彼らは裕福で高貴な人々が住む宮殿の隣で育った。そのため、「ポーランドらしくない」、誇り高くそびえ立つ柳に育つ機会があったのだ。このプロジェクトは、自然と文化の間の人工的な分断を解体し、人々がしばしば矮小化する「背景」から自然を解き放ち、木々を、トリエンナーレに参加するアーティストたちと対等な立場に置く。オロニスコの木々は、感覚を持った生きたイメージであり、その形は美しく、示唆に富んでいる。音声ガイドの録音は、ポーランド語と英語でSound Cloudで聴くことができる。
コレクティヴは、気候変動によって引き起こされる大災害に対する地元の視点に立ち向かうアートプロジェクトを遂行している。2019年から実施されてきた《気候危機抗議カラオケ》プロジェクトでは、シャワーを浴びているときや車の運転中に好んで口ずさまれる、よく知られたポップソングを取り上げた。ポップソングは通常、失恋の物語を歌い、私たちが悲しみや怒りに対処するのを助けてくれる。コレクティヴは、馴染みのある曲の力を借りて、環境危機に関連する困難な感情――気候変動の悲しみ、滅びゆく地球への哀しみ、各国政府の無策への怒りや苛立ち――を表現し、追体験することにした。ブリトニー・スピアーズの 『Toxic』は、原曲では有害な人間関係を歌っているが、これが地球を毒する人類を描く歌に変わり、また4 Non Blondesグループの『What's Up?』は、地球を破滅させる資本主義と家父長制への怒りを叫ぶ機会となった。《気候危機抗議カラオケ》には独自のYouTubeプレイリストがあるが、コレクティヴは他の戦略も用いている。例えば、2020年にワルシャワ近代美術館(Muzeum Sztuki Nowoczesnej)で行われたオンライン・レジデンスでは、アーティストがインスタグラム・ストーリーズに自分の演奏を記録するよう人々を招待した。
エヴァ・タタル(Ewa Tatar)のキュレーションによるビャウィストクのアーセナル・ギャラリー(Galeria Arsenał)のグループ展「Milk Me Sugar」(2020年)のために制作されたプロジェクト《歴史は全てを歪める(Historia Wszystko Wypaczy)》は、戦間期のヒット曲を再利用している。ユダヤ系ポーランド人作家、ユリアン・トゥヴィム(Julian Tuwim)やアンジェイ・ヴワスト(Andrzej Włast)の作った歌詞の改変は、キャバレー、華やかさ、多文化主義、生まれ変わった若い国家のダイナミズムを連想させるこの時代の別の顔、すなわち貧困、労働者の残酷な搾取、反ユダヤ主義の高まりを示そうとしている。『Panna Andzia(アンジャお嬢さん)』や『Tango Milonga(タンゴ・ミロンガ;海外では「Oh, Donna Clara」という題名で知られている)』のような曲は、戦間期の理想化されたイメージに疑問を投げかける機会となった。それらはまた、ポーランド文化やキャバレー芸術の発展に、ユダヤ系作家が国際的にも重要な貢献をしたことを思い起こさせる。
このように、コレクティヴの活動は、「アーティヴィズム(artivism)」という言葉で表現することができる。アーティストたちは、芸術、特にパフォーマンスの超越的な可能性を、活動家としての行動に利用しているのだ。前述のカラオケビデオや歌集に加え、彼女たちの活動は人々との直接的な接触に基づいている。例えば、一緒に歌うことを奨励するイベントやコンサート、文化的テキストの批判的な読み方や書き換え方に関するワークショップなどである。コレクティヴはポーランド国内外でこのようなワークショップを開催し、書き換えられるテキストの内容を現地の文脈に適応させている(例えば、2022年にはスロバキアのN:ear Experimental and Improvised Music Festivalで、また2025年にはオーストリアのインスブルックにあるモーツァルテウム大学の招聘で開催している)。
2022年、京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAで開催された「Lost in Translation」展に、ユーザーが《気候危機抗議カラオケ》を歌ったインスタグラム・ストーリーズの録画が展示された。2023年、「Study:大阪関西国際芸術祭」の「再・解釈」展では、カラオケルームを作り、日本の人気の娯楽空間に自分たちの作品を刻み込んだ。これらの日本でのイベントのために、コレクティヴ(メンバーの一人は日系人)は2曲の日本語の歌を書き換えた: 『セーラースターソング』(アニメ『美少女戦士セーラームーン』最終シーズンのオープニング曲)と、坂本九の『上を向いて歩こう』である。前者では、コレクティヴは、日本以外ではLGBTQコミュニティのシンボルとなっているセーラームーンの現象を暗示している。この事実は、G7で同性婚を認めていない唯一の国である日本ではほとんど知られていない。コレクティヴ版の『セーラースターソング』は、「負けない! 明日へ Sailor Queer/ゼッタイ!捕まえる Sailor Rights!このちかい とどけ 銀河まで」、と歌いながらLGBTQの人々の権利を守る曲となった。『上を向いて歩こう』はおそらく、全世代の日本人に最もよく知られているメロディーだが、コレクティヴの《気候危機抗議カラオケ》レパートリーに加わった。原曲では「涙がこぼれないように」歩こうと問いかける歌詞は、滅びゆく地球への悲しみを表現する機会となった。
コレクティヴ・ワスキは、親しみやすく包括的な方法を取り入れ、意識的に、人々に届く芸術言語を形成している。コレクティヴの作品は、パフォーマンス、音楽、共同体としての歌唱、観客との交流などの要素を組み合わせることで、芸術をより魅力的で、幅広い観客にとって理解しやすいものにしている。耳慣れたメロディー、変形されたテキスト、国や地域など、特定のコミュニティで共有されている経験に基づいた形式(カラオケや歌集など)を用いた作品を通して、コレクティヴは芸術と日常生活の架け橋となる。この戦略は、社会と環境に関わるテーマにおいて、特に効果的である。アートギャラリーで展開されるような難解な芸術言語ではなく、自然で理解しやすい形を模索することで、3人のアーティストたちは、コレクティヴのメッセージをより民主的なものにしている。
2024年10月、オーストリアのザルツブルクにあるペリスコープ・ギャラリー(Gallery Periscope)で開催された展覧会「This is what wellness sounds like」では、ガイド付き瞑想(英語:guided meditation)の慣習を活かしたコレクティヴのプロジェクトが披露された。サウンド・インスタレーションでは、マリア・ルゴネス(María Lugones)やヨランタ・ブラフ=チャイナ(Jolanta Brach-Czaina)などによる脱植民地主義やフェミニズムの学術的なテキストが、優しくささやくような声で朗読された。この作品は、ウィーンのアーティスト、ペーター・フリッツェンヴァルナー(Peter Fritzenwallner)による社会参加型の絵画と、ワイルド・アゴバ(Wilde Agoba)の指導によるマインドフルネス・エクササイズによって補完された。「This is what wellness sounds like」プロジェクトは、「マックマインドフルネス(McMindfulness)」という資本主義文化を批判し、関連する学術的テキスト、その詩性と美に対する新しい視点を提供した。