スラブの妖怪:恐ろしくて危険な女たち
スラブの起源を持つ古ポーランドの妖怪の中でも、とりわけ脅威とされた存在には女性がいた。疫病の乙女がハンカチを振れば死人が出た。死霊シチシガは生き血を求めて人を襲った。ラタヴィツァは魂を抜くために男を誘惑した。
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クラクフのレンカフカ祭(Rękawka)。歴史を再現するグループが出演。「シチシガ」を演じている,写真:Beata Zawrzel / Reporter
死霊シチシガ(ストリガ、シュチュシガとも)は、赤い爪を持つ腐った死体として想像された。人を餌食とし、血を飲み、肉をむさぼる。多くの民話では、シチシガは呪いをかけられた王女で、教会の地下室に埋葬されたが、清めたチョークでシンボルを描き、祈祷するなどの宗教儀式によって、美しい少女として蘇るとされている。
とはいえ、あらゆる女性は、社会的身分に関係なく、シチシガになりえた。例えば、二重歯列の人などは、生まれつきこの化物になる運命だとさえ言われた。この怪物に襲われると、多くの場合死に至るか、少なくともひどい衰弱状態になる。アンジェイ・サプコフスキ(Andrzej Sapkowski)が「リヴィアのゲラルト」を描いた最初の物語、1986年の『ウィッチャー』でメインの敵に彼女を選んだのも、この獰猛さのためだろう。
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水辺のニンフとルサウカ,マリア・パヴリコフスカ=ヤスノジェフスカ(Maria Pawlikowska-Jasnorzewska)による水彩画,1920年頃,写真:Museum of Literature / East News
水の精霊と似ているが、森に生息し、若くて美しい女性の姿をしている。肌もあらわに花冠を被った森のルサウカ(ルサルカ、ルサールカとも)は、その容姿と歌声で若い男を森の奥地へと誘う。そして崖から落として命を奪うか、くすぐり殺してしまう。
地域によっては、彼女が美しいのは正面だけで、背面に回れば、はらわたが剥き出しになった死体だと言われている。ルサウカはニガヨモギを嫌うと伝えられ、森に行くときは、これを少量持ち歩くことが身を守る手段になった。
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バビャ・グラ(右側)の眺め;遠景に西タトラ山脈,写真:Radek Jaworski / Forum
民族誌学者は、スラブの魔女であるヴィエジマを「半妖怪」としているが、古ポーランドの物の怪一覧から彼女を外す手はないだろう。ヴィエジマは、無数の伝説や文学作品に登場することからも明らかなように、極めて重要な神話的存在である。その名前はポーランド語の「秘密の知識」(wiedza—ヴィエザ)という言葉に由来している。古代には、分娩を助け、病気を治す技術を持った知恵ある女性として認識されていた。
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ヴィエジマの絵,写真:Mary Evans Picture Library / East News
ところが、この地がキリスト教化されると、ヴィエジマには魔女のよく知られた負の特徴が付け加わるようになり、最終的には完全な悪になってしまった。老いて、皺だらけで、歯がなく、赤い目をした意地悪な半妖怪は、呪いをかけ、病をもたらし、嵐や火事を起こすとされ、食人さえ疑われた。
18世紀にフランチシェク・クニャジニン(Franciszek Kniaźnin)が書いた頌詩「バビャ・グラ(Babia Góra)」(表題の実在するポーランドの山を舞台にした抒情詩。この山では魔女や悪魔の集会が開かれていると言われていた。)の中では、ヴィエジマは人を「ヘビ、ヒキガエル、カササギ」に変える力があるとされている。
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ペスタ(疫病の乙女),ゲーム「ウィッチャー3 ワイルドハント」より
疫病の乙女が町や村に現れることは、災いを意味した。言い伝えによれば、白い服を来た痩せ型の若い女性か、醜い老婆の姿をしていて、行く先々に疫病を運んだ。ワクチン接種が普及していなかった時代には、病気が容易に共同体を全滅させることがありえたため、ペストを擬人化したこの存在の脅威は巨大で、死そのものと同一視した所もあった。
19世紀にルチヤン・シェミェンスキ(Lucjan Siemieński)が記した民話『Morowa Dziewica(疫病の乙女)』によれば、彼女が赤いハンカチを振っただけで、リトアニアの集落に死病が蔓延したという。疫病の乙女が来た後は、「皆が死を待った」と書いている。
この風の精霊は流れ星という驚くべき姿をしていて、息を呑む美しさだったという。かなり危険な美と言わねばならない。ラタヴィツァの目的は、誘惑と破壊だったからだ。妖怪は外見と色気で男を惑わし、破滅の道を歩ませる。男は彼女の夜の訪問以外何も興味がなくなり、次第に衰弱し、死んでしまう。そしてラタヴィツァは魂を手に入れる。
だが悪霊の標的になってしまった不幸な男にも、望みはあった。マリーゴールドなどのハーブで作った飲み物が呪いを解き、彼を救ったという。ニンニクを携帯していると、この邪悪な存在を寄せ付けないとも言われた。
執筆:マレク・ケンパ(Marek Kępa),2017年2月
日本語訳:パヴェウ・パフチャレク(Paweł Pachciarek)、YA、2021年5月
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