ミッチ & ミッチ(Mitch & Mitch)は、ワルシャワのレコードレーベルLado ABCの下で長年活動してきたワルシャワのインディーズシーンを代表するグループと呼ぶにふさわしい、あらゆる要素を持ち合わせている。
その第一は、二人のリーダー、マチョ・モレッティ(Macio Moretti)とバルトウォミェイ・ティチィンスキ(Bartłomiej Tyciński)を中心に結成したミッチ & ミッチの周囲に、活動当初からインディーズシーンの最重要人物たちが集まっていたということだ。ミッチ & ミッチと演奏をしてきた音楽家たちとして、イェジ・ロギェヴィチ(Jerzy Rogiewicz)、マウゴジャタ・サルバク(Małgorzata Sarbak)、フベルト・ゼムレル(Hubert Zemler)、マグダレナ・ガイジッツァ(Magdalena Gajdzica)、ピョトル・ザブロツキ(Piotr Zabrocki)、ミウォシュ・ペンカラ(Miłosz Pękala)が挙げられる。これら数名の名前からも、ミッチ・アンド・ミッチはジャズ、クラシックやポピュラー・ミュージックのジャンルに分類されるミュージシャンから構成されていることが分かる(彼ら自身は特定のジャンルに分類されることを好ましくは思っていないが)。
さらに、ミッチ & ミッチは、キャッチーなメロディー、あたたかみのあるサウンド、そして観客を引き込むリズムを好んで用いている。だが大事なことは、それらに加えて、何らかのひねりや、意外な楽器、引用、ジョークが、必ず伴っているということだ。何よりもユーモアが重要である。ナンセンスでありながらも、親しみやすく、奇抜でありながらも、よりよい方向へと向かう一貫性をもっている。そして、これらはミッチ & ミッチだけではなく、彼らが代表する音楽シーン全体の特徴である。
ミッチ & ミッチの初めての写真撮影の様子を見れば、90年代の雰囲気が感じられ、ワルシャワの前衛音楽家であるウィシュカ・チリ・チリ(Łyżka Czyli Chilli)やジィ・フィ・スクルチュ(Z.F. Skurcz)のムーブメントが思いあたるだろう。画質の荒い写真には、東ドイツの西部劇と、ビースティ・ボーイズの『サボタージュ(Sabotage)』のミュージックビデオを混ぜたような衣装を身に纏ったメンバーが写っている。活動最初期の段階から既に、ワルシャワの音楽シーンで大きな存在感を放ち、数々の賞を受賞していたミュージシャンたちが、ミッチ & ミッチを構成していた。マチョ・モレッティとバルトウォミェイ・ティチィンスキは、スタージ・シンガーズ(Starzy Singers)、パリステトリス(ParisTetris)、アルテ・ザヘン(Alte Zachen)などに参加し、ワルシャワのインディーズシーンで活躍してきた音楽家である。しかし、私たちの目の前にいるのは、華々しい経歴をひけらかすミュージシャンではない。お分かりのように、ミッチ & ミッチである。謎に満ちたアメリカの外交官たちは、心の底ではカウボーイでありながら、ハトのような優しい心をもち、それは数多くの楽曲中に表現されている。彼らについて、これ以上の情報を得ることは難しい。なぜならば、長い間彼らはインタビューに応じていないうえに、アーティストとしてのペルソナも、テンガロンハットも手放すことはなかったからだ。
ファンタジーの世界
2003年にミッチ & ミッチは、デビュー作『Luv Yer Country』を発表した。もしこのアルバムが古びてしまったと感じる人がいるならば、ここ20年間でカントリー・ミュージックの評価が大きく変化したためである。オルタナティブ・カントリーやゴシック・カントリーが人気になり、ホアキン・フェニックスが『ウォーク・ザ・ライン / 君につづく道』(監督:ジェームズ・マンゴールド)への出演を決断し、世界中がテイラー・スウィフトに恋をしたためである。もはや今日ではカントリーというジャンルが、ムロンゴヴォ(Mrągowo)で開催されるポーランド最大のカントリーフェスティバルPiknik Countryのみを連想させるものではないとしても、20年前の状況は異なっていたことを覚えておく必要がある。ミッチ & ミッチは、当時軽蔑され、からかわれていたスタイルを取り入れ、そして彼ら自身ももちろん、そのスタイルをユーモアをもって扱っていた。しかし時には、そのユーモアは容赦なく、リフレインのフレーズが、突然の笑い声で中断されることもあった。しかし『Luv Yer Country』からは、カントリーの伝統への親しみと深い聞き込みに由来する理解が感じられる。そうしたカントリーへの愛着の強さゆえに、ミッチ & ミッチは、念願を果たし、Piknik Countryに出演することになった。
その3年後の2006年には、ミッチ & ミッチは2枚目のアルバム『12 Catchy Tunes (We Wish We Had Composed)』を発表した。本作は音楽的モキュメンタリーであり、恐れずに言うならば芸術的で愉快な騒動だった。この刺激的なムーブメントをメディアも進んで取り上げ、ミッチ & ミッチが仕掛けたゲームに参加したことを付け加えておこう。ミッチ & ミッチが敬愛する、神にも人間にも忘れ去られた音楽家によって作曲された、タイトルになっている12の楽曲について、ヤレク・シュブリフト(Jarek Szubrycht)は、Onet(ポーランドの主要メディアの1つ)に発表したレビューを、次の告白から始めた。
Arkiun Tekkelakiは僕のお気に入りのサウンドトラックメーカーだ。ポーランド映画でも外国映画でも、ほとんどすべての映画で彼の音楽を耳にした。Zelig Rabitchnyakも好きだ。『Kill'em All』で終わったという人がいるけれど、僕はすべての作品を買っている。同じくらい僕が好んで聴いているのは、たぶんThe Jürgen Hans Maier Bandぐらいだろう。
もし読者がこの発言を真に受けたなら、幻の天才作曲家たちの作品を探し求めて、足を掬われていただろう。
現在の地点から振り返ってみると、この騒動の拡大よりも、ミッチ & ミッチが『12 Catchy Tunes (We Wish We Had Composed)』において打ち出した美学の方が重要に思われる。ミッチ & ミッチは、カントリーとの緊密な関係を緩め、ポップ、イージー・リスニングやライブラリー・ミュージックの方へ舵を切った。ただし彼らが流行のスタイルから、距離を取り続けていることは変わっていない。2010年のアルバム『XXII Century Sound Pioneers』においても、その傾向は変わっていなかった。本作では、ボサノヴァへの更なる傾倒が顕著であり、そのために編成が9人組のノネットに拡大された。この美しくアレンジされた楽曲たちのアルバム(なんて素敵なヴィブラフォンの音色だろうか!)は批評家たちを強く魅了し、他のアーティストとの比較や検討が行われた。日刊紙『Dziennik』上のレビューでは、ヤツェク・スコリモフスキ(Jacek Skolimowski)が、バート・バカラック、アントニオ・カルロス・ジョビン、ステレオラブ、ジャガ・ジャジストについて言及した。しかしこれらの名前は、ミッチ & ミッチの引き合いに出されたミュージシャンたちの一部に過ぎない。
(ファンタジックでもあるけれど)リアルの世界
ミッチ & ミッチについては何もかもが不明瞭だが、ただ一つ言えるのは、彼らが次の作品の制作を共にした作曲家は、たしかに実在するということだ。『Bakterien&Batterien』は、ドイツ人アーティストのフェリックス・クービンと共同制作の結果、誕生した作品で、ミッチ & ミッチの作品の中でも、最も難解なアルバムであるといえるだろう。ミッチ & ミッチのジャズやラウンジ・ミュージックへの志向と、クービンの前衛音楽的なルーツの両極にまたがっているからだ。バルテク・ハチンスキ(Bartek Chaciński)が、ブログ『Polofonia』に次のように書いている。
ミッチ & ミッチは、エレクトロジャズ、ラテン、イージー・リスニングやインシデンタル・ミュージックにこだわり続けたが、それが逆説的にクービンの狂気をいくらか抑えることになった。反対にクービンは、オーケストラによって演奏されるメロディーと主題に不安の色を添えている。(...)
クービンとの制作の後、ミッチ & ミッチは音楽業界から認められ、批評家たちのお気に入りという立ち位置を獲得したように思われた。もしその時、次のミッチ & ミッチのアルバム収録が、ポーランド・ラジオのヴィトルト・ルトスワフスキ・コンサート・ホール(Studio Koncertowe Polskiego Radia im. Witolda Lutosławskiego)で行われると聞いたなら、『みつばちマーヤの冒険』の主題歌で知られるズビグニェフ・ヴォデツキ(Zbigniew Wodecki)と共同制作されるのではなく、アド・リビトゥム即興音楽祭(Festiwal Ad Libitum) 中に行われると、すぐさま判断していただろう。しかしミッチ & ミッチの歴史、そして何よりもヴォデツキがそれまでに発表していた楽曲を注意深く聴けば、クービンとの共同作業の結果としての難解な作風から、大衆音楽のイメージが強いヴォデツキとの共同作業への転換は、それほど驚くことではない。ヴォデツキのデビューアルバムは、30年後にミッチ & ミッチが取り組んだ領域と同じ、ボサノヴァ、ヴォーカル・ジャズや、エレガントなバカラック・ポップといったジャンルを既に探求していたのである。実のところアルバム発売当時は世間の反響は少なかったが、ミッチ & ミッチが新たに収録したコンサート盤『1976:A Space Odyssey』は大きな成功を収めた。このアルバムは批評家たちを魅了したのみならず(ミッチ & ミッチはもはやこの評価に慣れていた)、商業的成功も収めた。(3万枚以上の売り上げを達成した作品に与えられるプラチナ・ディスクを2度獲得し、ポーランドで最も権威のある音楽アワードであるフレデリク賞も2部門受賞した。)そして何よりも、ミッチ & ミッチは、ポーランドの音楽の歴史を書き換えたのである。その瞬間から、もはやヴォデツキは「陽気なテレビのおじさん」ではなく、偉大な作曲家となったのだ。ヴォデツキの『悪いものは全部放り投げろ(Rzuć to wszystko, co złe)』、『私のおじいさんの乙女たち(Panny mego dziadka)』といった楽曲が、ポーランド中で歌われた。『ミツバチマーヤの冒険(Pszczółka Maja)』をリアルタイムで見ていなかった世代さえもヴォデツキの歌を歌っていたのである。
リオを通ってイタリアへ
『1976: A Space Odyssey』の成功後の期待があったのかもしれないが、2017年に発表された『Visitantes Nordestinos』に対する反応は、それほど大きなものではなかった。ミッチ & ミッチは、この作品をリオ・デ・ジャネイロで、ブラジル人プロデューサー兼マルチインストルゥメンタリストのカシンと制作した。ボサノヴァやトロピカル、メロディアスなサイケデリック・ロックを愛するミッチ & ミッチにとっては、カシンとの共同制作を行うことは、何の不思議もなかった。『Visitantes Nordestionos』においても確かに独創性は認められ、豊かなアレンジが耳を楽しませてくれる。しかし、それでもミッチ & ミッチの作品中、本作ほど完成形が想像の範囲内に収まってしまったアルバムは以前には存在しなかった。その2年後に発表された、ライブラリー・ミュージックのミュージシャンたちに捧げられた4曲を収めたEP『Frisco Moods』もまた、大きな注目を集めることはなかったという印象だ。音源のそもそもの性質が問題であるのかもしれない。しかし、確かにこれらの楽曲はメディアや広告での使用のために作曲されたものだが、本当にBGMとして流れる音楽に過ぎないのだろうか?
意識的だったのかどうか、次のアルバムではミッチ & は、既に一度彼らに大きな成功をもたらしたスタイルに回帰した。今回も大きな役割を果たしたのが、ルトスワフスキ・スタジオだった。そこでミッチ & ミッチは伝説的な作曲家の知られざる一面を明らかにした。ヴォデツキと共演した前回との大きな違いは、今回はゲストミュージシャンと共にステージに上がるのが不可能だということだった。というのもミッチ & ミッチが、60年代から70年代にかけて作曲され、(もちろん!)サンバやボサノヴァのスタイルを特徴とする楽曲を選ぶために、エンニオ・モリコーネの膨大な作品群に手を伸ばしたためである。アルバム『Amore Assoluto Per Ennio』の成功の理由となったのは、単なる楽曲の素晴らしさのみならず、一新された編成によるところも大きい。ミッチ & ミッチのメンバーは活動当初から本名を隠して活動していたが、グループ内で革命的な変化があったと知るには、コンサートを数分聞くだけでも十分だった。ステージ上には、モレッティとティチンスキの隣に、今回はマウゴジャタ・サルバク(Małgorzata Sarbak)、マグダレナ・コルディラシンスカ・ペンカラ(Magdalena Kordylasińska-Pękala)、マグダレナ・ガイジッツァ(Magdalena Gajdzica)、アンナ・バラン(Anna Baran)、アニャ・ブラハチェク(Ania Brachaczek)ら女性ミュージシャンのみが出演していた。アルバムの制作過程が『1976: A Space Odyssey』を連想させるものであると考えるならば、その成果も同様であった。その証拠に、コンサートのチケットは完売し、フレデリク賞の『インディーポップ部門最優秀賞』を受賞した。
ディスコグラフィー
2003:"Luv Yer Country" (Zgniłe Mięso Rekords)
2006:"12 Catchy Tunes (We Wish We Had Composed)" (Lado ABC)
2009:"Blackmail / Extortion DVD" (Lado ABC)
2010:"XXII Century Sound Pioneers" (Lado ABC)
2010:"Love For Three Cockroaches" (Igor Krutogolovとの共作) (Auris Media / Lado ABC)
2013:"Bakterien & Batterien" (フェリックス・クービンとの共作) (Lado ABC / Gagarin Records)
2015:"1976: A Space Odyssey" (ズビグニェフ・ヴォデツキとの共作) (Lado ABC)
2017:"Visitantes Nordestinos" (カシンとの共作) (Lado ABC)
2022:"Amore Assoluto Per Ennio" (Jazzboy Records)
オフィシャルサイト:http://mitchandmitch.bandcamp.com/
執筆:ヤン・ブワシュチャク(Jan Błaszczak)、最終改訂2023年9月22日
翻訳:岡田葵(Aoi Okada)、2025年9月