マリア・ロボダにとって、現実と物質世界は印と意味の海である。彼女が関心を持っているのは、象徴的な物質と時間と歴史の結びつきだ。ロボダは、物質世界と精神世界との間、合理主義と神秘主義の間を結びつきを追求する。彼女の作品には、彫刻やインスタレーションや描画といった様々な視覚芸術の流れにある表現方法が多く見られ、作家の分類が非常に困難である。
2003-2008年、フランクフルトStädelschule美大のマーク・レッキーMark Leckey教授のもとで美術を学んだ。2007年から2008年までニューヨーク大学とスタインハートSteinhardt文化大学の奨学金生。ドレスデン銀行奨励金(2008年)、ヘッセン州文化財団Hessische Kulturstiftung奨励金(2010年)。ベルリン及びロンドン在住、制作。
『侮辱と憎悪ガイドPrzewodnik po Obrażaniu i Mizantropii』と題された初期の作品では、おもちゃの花を言葉を巧みに使って物質的対象にした。2004年の作品は、普段ありえない方法で花が花びんに生けられている。この不思議な、対照的で人目をひく色合いの大小の花の組み合わせは、ヴィクトリア時代の象徴的な花言葉に関連づけられている。花束の一つ一つは、嫌悪や不信や絶望など、むしろ否定的な概念を表している。作家は、後になって、この作品の別バージョンをいくつか制作したが、それぞれ花の置き方が違い、それによって意味や示唆するものも変わっている。
この作品はロボダの全作品と彼女の芸術に対する姿勢に特徴的な性質を多く持っている。2007年に『どうなる?Co się stanie?』という題で床のインスタレーションを制作した。明るい色の幾何学的な形態をいくつか配置した黒い板張り床で構成されていた。その床にはスプーンの入った奇妙なカップが立っていた。床の形は古代中国の占いの書、易経のシンボルから思いついたものだった。東洋の伝統では、予言を手に入れるにはこの書物にある正直で誠実な問いかけが条件であった。彼女の作品は、作品の意味と目的について問いかけさせ、見る者を占いの世界に引き込んだ。
2010年、続いて彼女の作品『終了前に放棄された課題Zadania Porzucone Przed Zakończeniem』が発表された。黒い皮で覆われた巨大な机である。天板には取り払われた物の跡が残っているのがわかる。この作品では、普段、仕事や集中力を思い出させる家具が、いつもの役割から解かれて丸裸にされ、未完了の課題の象徴に変化している。
2011年のインタビューで、マリア・ロボダはその制作活動について次のように話している:
「驚くことではないでしょうが、わたしの作品制作の主な活動というのは考えることなんです。私は別にいい職人でもありませんし、この仕事で普通そんなにいい気分なことはありません。私にインスピレーションを与えるのは、芸術創作の伝統、創造過程の裏付けになる知識、創作方法、何か作るのに必要な材料と構成物なんです。ちょっと一つの職に専門的になるのが怖いんです。言葉を知らなくても、全部をなんとかうまく惑わすぐらいには十分わかっている人のように、それぞれを少しずつ訪ねていく方がいいんです。」
2012年、ロボダの作品『この作品は皇帝に献呈するTo dzieło jest zadedykowane cesarzowi』が、第13回ドキュメンタDocumentaで取り上げられた。これは、その構成を変化させ、温室の片方の隅からもう片方へと移動して回る、一種の動く森を作り出す20本の糸杉からなる作品だった。
2014年、ピエンチュ・スタフ谷Dolina Pięciu Stawówの山小屋滞在中に、ロボダは『夜のための昼Dzień za Noc』を制作。幾何学的構造のプリズムを通して自然を見せるステンドグラスである。後に、彼女は作品制作を続け、映画作品『夜が昼を征服するNoc zdobywa Dzień』という形に継続させた。これは、市街地の対称形で調整された緑地に、山々の人を近づけない野生という秘密めいた絵の組み合わせである。
2017年1月、『わたしは敗北にあって晴れやか、晴れやか、晴れやか…Jestem promienna, jestem promienna, jestem promienna w mojej porażce…』と題されたマリア・ロボダの個展がヴィルヌスの現代美術センターで開かれた。この現代美術センターのために特別に制作された展覧会では、さまざまな信仰の古い観念、人間の魂の超越的な解釈、そして建築や考古学、宗教、芸術、魔術的道具におけるその表出について深く掘り下げる作家の芸術的追求が継続されている。
2017年2月24日、ロドバ初のスイス展オープニングがあった。彼女に特徴的な「現代考古学」の流れを継続する新作集を披露した。展覧会は『マリア・ロドバ:青い王国の混乱Chaos w Królestwie Niebieskim』と名付けられた。
筆者:マレク・ケンパMarek Kępa 2012年6月
2017年2月加筆NS
日本語翻訳:岩田美保 2017年12月