ヤクプ・ユゼフ・オルリンスキ(Jakub Józef Orliński)はカウンターテナーでありブレイクダンサー。1990年ワルシャワ生まれ。2020年に「Paszport Polityki」(『ポリティカ』誌の「パスポート」賞)を受賞した。2018年には『テレグラフ』で「世界で最も魅力的なオペラアーティスト10人」に選ばれ、2019年には「Opus Klassik」賞および『グラモフォン』誌の最優秀若手アーティスト賞を受賞している。
少年時代には、グレゴリアヌム(Gregorianum)合唱団で歌っていた。ワルシャワのフレデリック・ショパン音楽大学では、アンナ・ラジェイェフスカ(Anna Radziejewska)に歌唱を学んだ(2014年卒業)。またワルシャワ大劇場−国立オペラ劇場主催のオペラアカデミー・プログラムに参加し、Eytan PessenとMatthias Rexrothからレッスンを受けた。大学在学中には、ショパン音楽大学とゼルヴェロヴィチ演劇大学が主催するイベントに数多く出演した。2015年から2017年にかけてはニューヨークのジュリアード音楽院でEdith Wiensのもとに学んだ。
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ヤクプ・ユゼフ・オルリンスキとミハウ・ビェル,写真:Honorata Karapuda/プレス資料
2012年には、ジリナ(スロバキア)で開催されたRudolf Petrak国際コンクールで第1位を獲得、ヴァイカースハイム(ドイツ)で開催された第6回ヨーロッパ・オペラ歌唱コンクールDEBIUT 2012で特別賞を受賞した。さらに2015年には、ニューヨークで開催されたマルツェラ・センブリフ=コハンスカ(Marcella Sembrich-Kochańska)国際声楽コンクールで第1位を獲得した。続く2016年には第9回スタニスワフ・モニューシュコ(Stanisław Moniuszko)国際声楽コンクールの男声部門で第2位を獲得。同年、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の「ナショナル・カウンシル・オーディション」の決勝を制した。この時、『ニューヨーク・タイムズ』紙の批評家Corinna da Fonseca-Wollheimは、オルリンスキについて「音色の美しさと、声域全体での色と艶の並外れた統一感を兼ね備えている」と書いた。
2018年秋、Erato/Warner Classicsからデビューアルバム『Anima Sacra』がリリースされた。伴奏はMaxim Emelyanychevが指揮するIl Pomo D’oroオーケストラが務めた。このアルバムでは、ナポリ楽派を中心に、ドイツとイタリアのバロックに関連する作曲家による18世紀の宗教アリアが取り上げられている。ドロタ・シュファルツマン(Dorota Szwarcman)は『ポリティカ』誌にこう書いた。
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Jak poszukuje się zapisów średniowiecznej muzyki? Skąd wiemy, jak ją wykonywano? Co czuje wykonawca do kompozytorów, którzy żyli kilkaset lat temu? O tym, i o wielu innych sprawach, rozmawiają Filip Lech i Michał Gondko.
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「オルリンスキが聴き手に提供しようとしたのは、名人技の披露ではなく、魂の体験だ(中略)コンセプトに沿って、ソリストはテクニックよりも音の美しさや感情に重点を置いている。とはいえ、卓越した技巧の作品もここに欠けてはいない。」
オルリンスキは適切な楽曲を入念に探し、アルバムには初演となる作品が8曲も収録されている(作曲家Nicola Fago、Domènec Terradellas、Domenico Sarro、Francesco Feo、Gaetano Maria Schiassi、Francesco Duranteの作品)。これを実現するにはYannis Françoisの協力が不可欠だった。バロックの稀少な楽譜を収集することに情熱を傾けているグアドループ出身の歌手である。ポーランド・ラジオ(Polskie Radio)第二チャンネルの放送でこのように語った。
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「アルバムの曲目をまとめるのには一年半かかりました。何よりも全体として意味のあるものにするためです。知られざる作品を見つけたり、新しいものを発掘したりするのは難しくありません。実際、図書館には、まだ現代の記譜法に書き換えられていない作品がたくさんあります。でも私たちはそこから何らかの物語を作ろうとしたんです。長い時間がかかりましたが、その甲斐あって8曲のすばらしい世界初演を収めることができました。」
バロック音楽の何がオルリンスキを触発するのだろうか。それは、選択肢の多さ、芸術的自由と、バロック様式の数多くの規則に従う必要性が共存していることだ。「様々な解釈が可能な装飾音をはじめとして」とアーティストは語る。「装飾音では、創造性を発揮することもできるし、作品の核心に迫って芸術的個性を表すこともできます。表現者の人生経験がフィルターとなり、音楽的選択に影響を与えるのです」。後の時代の楽曲も避けることなく、フランツ・シューベルトやベンジャミン・ブリテンの曲を好んで歌い、現代曲にも関心を持っている。
ヤクプ・ユゼフ・オルリンスキの芸術活動は歌にとどまらない。ブレイクダンサーとしても活躍しており、これを活かした作品を作ろうとしているオペラ作家もいる。「Red Bull BC One Cypher Poland」コンテストでは第4位、「Stylish Strike – Top Rock」コンテストでは第2位、「The Style Control」コンテストでは第2位を獲得した。ダンサー、モデル、アクロバット師として、有名ブランドやコンサートのCMやキャンペーンに出演したこともある。
舞台経歴
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「Opus Klassik」を受賞したヤクプ・ユゼフ・オルリンスキ, ベルリン, 2019年10月13日, 写真: Felipe Trueba/EPA/PAP
2013年にArte dei Suonatoriオーケストラとともに、ポズナン・フィルハーモニーでヘンデルの《メサイア》を歌った。2014年春にはドイツのアーヘン劇場でヘンデルのオペラ《アルチーナ》のルッジェーロ役を演じた。同年秋にはワルシャワのスタニスワヴォフスキ劇場(Teatr Stanisławowski)でヘンデルのオペラ《アグリッピーナ》のナルチーゾ役を演じた。2015年にはライプツィヒ・バレエ団/ライプツィヒ歌劇場でマリオ・シュレーダー(Mario Schröder)振付によるバレエ劇《オセロ》に出演し、シェイクスピア役を演じた。
2016年にはヘンデルの《メサイア》でヒューストン交響楽団にデビューし、この公演はニューヨークの著名なカーネギー・ホールでも開催された。2017年2月にはニューヨークのローズマリー&メレディス・ウィルソン劇場(Rosemary and Meredith Willson Theater)で《アグリッピーナ》のオットーネ役を演じた。エクサン・プロヴァンス音楽祭(Festival d'Aix-en-Provence)では、フランチェスコ・カヴァッリのオペラ《エリスメナ(Erismena)》のOrimeno役を演じた。同年秋にはフランクフルト歌劇場にデビューし、ヘンデルのオペラ《リナルド》のタイトルロールを演じた。
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ヤクプ・ユゼフ・オルリンスキ,写真:Kamil Szkopik/プレス資料
2018年には自身のデビューアルバムをもとにしたリサイタルを開催し、ミハウ・ビェラ(Michał Biela)とも数多くの共演を果たした。同年夏には、ロンドンのウィグモア・ホールにデビューを飾った。10月にはヘンデルのオペラ《ロデリンダ》のウヌルフォ役を演じた。2019年8月には《リナルド》がフランクフルト歌劇場で再演されたほか、イギリスのグラインドボーン音楽祭(Glyndebourne Festival)でも上演された。
執筆者:フィリップ・レフ(Filip Lech)
日本語訳:パヴェウ・パフチャレク(Paweł Pachciarek)、YA、2021年7月