ユリイ・ビレイ:両国の連帯が続いてほしい【インタビュー】
ウクライナ出身でポーランド在住のアーティスト/キュレーターのユリイ・ビレイ(Yuriy Biley)に、パヴェウ・パフチャレク(Paweł Pachciarek)がインタビューをおこなった。移民の体験や、それを反映した作品、また誰もができるウクライナの支援方法について語る。
ユリイ・ビレイ(Yuriy Biley)
1988年ウクライナのウジュホロド生まれ。美術作家、キュレーター。Detenpylaギャラリー、Open Group、ZA*Grupa(ポーランド在住の外国人アーティストのグループ)の共同設立者。ヴロツワフのインディペンデントスペースNOWY ZŁOTYを共同運営。2015年からヴロツワフを拠点に活動。
作品では、移民の経験や、複雑なアイデンティティの概念の探求にかかわるテーマを中心に扱う。その多くは個人的な体験に基づき、借用や引用を使って構築される。文化的要因としての言語の影響やテキストに関心がある。インスタレーション、コラージュ、ポストアート的性質の作品を制作。
Q:現在はポーランドに住んで、活動されていますが、これまでの経緯をお話しいただけますか?
2015年からポーランドに住んでいます。当時、ヴェネツィア・ビエンナーレで現在の妻(ポーランド人)と出会ったのです。いまはヴロツワフに住んでいます。私は、この決断を「心の移住」とよく呼んでいます。ポーランドに移住したのは27歳の時で、移住前にもここに何度か来たことがありました。2012年には6か月間「Gaude Polonia」プログラムの助成を受け、ワルシャワで制作しました。レジデンスや展覧会にも来ていました。ルブリンのLabirynt(ラビリント)ギャラリーやビャウィストクのArsenał(アルセナウ)ギャラリーをはじめ、様々な機関と密接に連携していました。
ポーランドに来たとき、私はすでに経験ある作家でした。ウクライナでは共同でOpen Groupを立ち上げ、リヴィウでDetenpylaギャラリーを運営していました。Open Goupとして、第56回ヴェネツィア・ビエンナーレではウクライナ館のグループ展に参加し、2013年と2015年にはウクライナで最も重要なPinchukArtCentre賞を受賞しています。ポーランドに移住後も、2019年に第58回ヴェネツィア・ビエンナーレのウクライナ館のキュレーターを、Open Groupと共同で務めました。
移住の経験により、自分を形成した環境や自分の作品で扱っている価値観やテーマについて意識的になりました。それで地政学的な変化、移民の増加やその社会的地位など、自分に直結するテーマに興味が出てきたのです。2020年5月に結成したZA*Grupa(ザ・グルパ:ポーランド在住の外国人アーティストのグループ)では、ユリア・クリヴィチ(Yulia Krivich)、ヴェラ・ザルツカヤ(Vera Zalutskaya)とともに活動しています。このグループでは、移民の体験について語り、ポーランドに住む外国人アーティストに関心を集めたいと思っています。また2019年からヴロツワフの自主企画展イニシアティブNOWY ZŁOTY(ノヴィ・ズウォティ *NEW GOLDENの意)で共同キュレーターとして活動しています。
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ユリイ・ビレイ、CEL POBYTU(滞在目的)、インスタレーション, オーディオ2h 3' 12", 151オブジェ、2021、Labiryntギャラリー、ルブリン、写真:Wojciech Pacewicz
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Q:どうして近年、ポーランドに移住するウクライナ人が増えているのでしょうか?ビザの取得が容易なこと、生活費や学費が比較的安いこと、また文化が似ていることが主な理由でしょうか?それとも全く別の理由があるのでしょうか?
両国は言語や文化が似ています。ポーランドといえば、EUや福祉国家を連想するウクライナ人も多いです。定住地としてここに来る人もいますし、さらに西側へ移住するためのトランジットとして考えている人もいます。一時的に仕事をしにくるのはもっと簡単です。隣国ですからね。
このような移住は何年も前から多いのですが、マイダン以降、2014年の戦争開始とともにその数は大幅に増加しました。この出国はまだ難民認定されていませんでしたが、実際、非常に多くの人がポーランドに働きに来るようになったのです。
2017年以降、ウクライナ人は最大90日間、EU域内を自由に移動できるようになりました(シェンゲン圏と同様です)。これによって滞在許可証の取得も容易になりました。この結果、移民の数が大幅に増えたのです。今日、私たちは、一日にして従来の移民が難民となったのを目撃しています。2月24日以降にEU域内に入ったウクライナ人は、学業や仕事、休暇のために出国したのではないからです。自分の意志で国を出たのではありません。戦火を逃れたのです。
Q:ポーランドでいまだに慣れないことや変えたいことはありますか?
名前のスペルを正確に書いてもらいたいですね。いつも問題があります。このことに言及した作品もあるんですよ。私の氏名を誤って表記した数あるバージョンの一つに、取り消し線を引いたものを、野球帽に刺繍したのです。
もっと真面目な話をすると、今後ポーランドに多くのウクライナ人が住むことで、ウクライナ人が犠牲者のように見られたり、エキゾチックなアトラクションのように扱われたりすることがあってほしくないと思っています。重要なのは、一時的なものから持続的なものへの変化という概念を意識することです。いま起きていることが持続的な効果をもたらしてほしいと強く願っています。両国の間にこの特別な連帯感が残り、緊張や歴史的な誤解のない協力関係が続いてほしいのです。いま、このプロセスの重要な局面にあると感じています。
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ユリイ・ビレイ「私のスローガンは政府のナラティブに一致していると誤解されるかもしれない」、横断幕 100x1.26 m、赤い布地に白の絵の具、横断幕上のスローガン:「特に日暮れには安心感が低下する」、2021年11月10日、ポーランド・ベラルーシ国境近くのミハウォボ(Michałowo)周辺、写真: Marta Czyż
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Q:作品「滞在目的(Cel pobytu)」はご自身の移住体験に基づいていますね。ウクライナから持ってきた物で構成されたインスタレーションです。この作品について教えてください。
この作品は、これまでに二回展示しています。2019年にはブロツワフのNOWY ZŁOTYで、2021年にはルブリンのLabiryntギャラリーで展示しました。いま私の家にある、さまざまな物で構成した作品です。このオブジェはいっしゅの自画像ですが、私のアイデンティティについても多くを語っています。今日的視点では、現在の難民にはない移民の特権として捉えています。でも物語っているのは贅沢さではなく、安定感です。これらの物は私の新しい家を補完するものであり、ポーランドへの移住以来、私の周りにある永続的なものです。
Q:現在、取り組んでいることは?
3月4日に、リヴィウの市立アートセンター(Lviv Municipal Art Center)とインタールーム・スペース(Inter-Room Space in Lviv)で、マルタ・チシュ(Marta Czyż)と共同キュレーションをおこなった展覧会「Nie możecie się teraz rozejść(いま解散しちゃだめ)」のオープニングを予定していました。
4月8日からはジェロナ・グラのBWAギャラリーで個展「Przybyłem, zobaczyłem, zapłakałem.(来た、見た、泣いた)」を開催します。私のポーランドでの生活を語る内容です。
この一週間はウクライナのことだけに集中しています。自分の国、人々、芸術、家族のために何ができるだろうかと考えています。
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ユリイ・ビレイ、CEL POBYTU(滞在目的)、インスタレーション, オーディオ2h 3' 12", 151オブジェ、2021、Labiryntギャラリー、ルブリン、写真:Wojciech Pacewicz
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Q:もし可能性があれば、将来は国に帰り、ウクライナで活動したいと考えていますか?それとも、現在はそのような考えはありませんか?
ポーランドは私の新しい家であり、ここ数年は、一時的な場所あるいはトランジットの場所として見ていません。
Q:ロシアの侵攻により、世界中がウクライナに注目しています。私たち一人ひとりが、ウクライナを助けるために何ができるでしょうか?
ポーランドには多くの団体があり、その大半がポーランド・ベラルーシ国境の危機を助けていました。いまはウクライナからの難民を支援しています。金銭的な支援を受け付けている、実績あるウクライナの団体もいくつかあります。なにより、ウクライナ軍に支援金を送ることが可能です。世界各地のデモへの参加なども、ウクライナへの支援を示す身振りとなります。現時点で、あらゆる経済制裁に意味がありますし、FIFAやヴェネツィア・ビエンナーレなど、国際的なイベントからの除外も、どんな小さなものでも重要です。ロシアに知り合いがいるなら、ウクライナで何が起きているか、世界中がこの出来事を「独立国に対する侵略者の攻撃」だと明確に見ていることを知らせましょう。政府が日常的におこなっている情報操作からかれらを切り離し、現実を認識させる必要があります。いま、最も重要なことは、国籍に関係なく、一つに団結して行動し、声をあげ、ウクライナでの戦争を止めることです。
執筆:パヴェウ・パフチャレク(Paweł Pachciarek)、2022年3月
日本語訳:YA、2022年3月