ジャズでつながる日本とポーランド
日本とポーランドの国交樹立100周年を翌年に控えた今、両国のジャズ・ミュージシャンが共演する事例が増えている。その人脈はこれからますます豊かに広がっていくと予想されるが、共演例のうち、いくつか代表的なものをご紹介したい。
まず、近年の両国間のジャズの蜜月を象徴するような現在進行形のプロジェクトが二つある。一つ目は、コペンハーゲン在住のAlbert Karch(drums)と、コ・リーダー・トリオtryphonicなどで活躍する小美濃悠太(bass)が結成したAlbert Karch Yuta Omino International Projectだ。二人は2017年にアルバム制作のためのクラウドファンディングを立ち上げ、見事目標金額を達成。石川広行(trumpet)、大谷桃(piano)を迎えて録音されたアルバム『晴れ』は支援者に無事届けられた他、Algorhythmなど若手ミュージシャンたちの作品をリリースする新進レーベルAlpaka Recordsから2018年9月にリリースされた。また、二人はCopenhagen Jazz Festival 2018にTomasz Dąbrowski(trumpet)、Kamil Piotrowicz(piano)とのクァルテットとして出演し、絶賛を博した。Albertは2018年9月から12月まで東京に滞在予定で、小美濃とのプロジェクトは石川、大谷の他、山田貴子(piano)、千葉岳洋(piano)、ポーランドからKuba Więcekを迎えて様々な編成で日本ツアーを行う。
もう一つの重要な日ポ共演プロジェクトは、Tomasz Dąbrowski AD HOCだ。日本のみならず国際的に活躍するベテランの南博(piano)、オールジャンルにその才能を発揮するファーストコール千葉広樹(bass, electronics)、TV番組にも出演した人気ポップグループまゆたまなどでも活躍する坪井洋(drums)という個性豊かな日本人3名が参加したクァルテット。Tomaszの初来日時に一晩で録音した『Strings』が2016年に日本のAir Plane Recordsからハイレゾ音源のみでリリースされ話題を呼び、続く2nd『Ninjazz』は2018年にFor Tune Recordsからデジタル配信とアナログの2形態でリリース。同年にはポーランド公演も成功させた。
この両プロジェクトで特筆すべき点は、日本側のメンバーがほとんど小美濃ら30代以下の若手世代で、彼らがポーランドをはじめとしたヨーロッパのジャズシーンに深い関心を持っていることだ。若者ならではの旺盛な好奇心と探求心は、ここ数年のうちに両国共演の新プロジェクトを数多く生み出すはずだ。
ベテラン世代のプロジェクトも注目すべきものが多い。Anna Maria Jopek(vocal)と小曽根真(piano)のコラボレーションは、2010年の小曽根のピアノソロ作品『Road to Chopin』ではじめて実現した。同作ではAnna Mariaのゲスト参加2曲のみに留まったが、翌2011年に二人は、日本とポーランドの民謡をとりあげ両国間の音楽の架け橋をコンセプトにしたアルバム『Haiku 俳句』をリリース。以後Anna Mariaは何度も来日公演を行い、2015年には東京ジャズのメインステージThe Hallへの出演を果たす。2014年には「V4+日本」交流年親善大使にも任命された。また、ポーランドと日本の双方で小曽根との共演を重ねている。クリヤ・マコト(piano)は90年代以降のポーランドシーンを牽引するPiotr Wojtasik(trumpet)、シュチェチン市が生んだスターSylwester Ostrowski(sax)にアメリカ人リズムセクションを加えたJust Musicを結成。同グループの唯一の作品『Just Music』は2014年に日本のP-VINEからリリースされている。またクリヤはSylwesterとともに何度もポーランドでのコンサートを開催している他、2018年にはJerzy Małek(trumpet)、Andrzej Święs(bass)、Michał Miśkiewicz(drums)というメンバーでワルシャワ公演を行った。なお、映画音楽家でもあるクリヤの初のサウンドトラック『NITABOH仁太坊-津軽三味線始祖外聞』はワルシャワ・フィルハーモニック・オーケストラとの共演により制作されている。
ポーランドと日本のジャズの絆を深めた最大の功労者は内橋和久(guitar)かも知れない。2001年に自身のトリオAltered StatesでWarsaw Summer Jazz Daysに出演したことがきっかけでポーランドの音楽シーンに興味を持った内橋は、ポーランドで積極的に即興ワークショップを重ねた。その経験を活かし、歴代のワークショップ参加者の中から精鋭を選んで日本に招聘し、彼らと八木美知依(筝)、坂田明(sax)、梅津和時(sax)など日本を代表するインプロヴァイザーたちが共演するコンセプトの「今ポーランドがおもしろい」というライヴプロジェクトを三度開催。Sza/Za(clarinet, violin)、Jerzy Mazzoll(bass-clarinet)、Jacek Kochan(drums)、Maciej Obara(sax)、LXMP(bass, drums)、Wacław Zimpel(clarinet)など計10数名に及ぶ器楽奏者を日本に紹介した功績は絶大なものがある。また内橋は、来日メンバーのひとりMichał Górczyński(clarinet)とのデュオ作や、Michałがコ・リーダーの現代音楽ユニットMalerai、ワルシャワ在住の日本人シンガーMaya R.と共に録音した『Utsuroi』(For Tune Records)もリリースしている。
その他、ピアノトリオLevity『Chopin Shuffle』の近藤等則(trumpet)、Marcin Ciupidro(vibraphone)のデビュー作『Talking Tree』の境祥子(marimba)などポーランド制作作品における日本人のゲスト参加、逆に李祥太(piano)がニューヨークで結成したビッグバンドの1st『喜望峰』にRafał Sarnecki(guitar)が参加するなど、その共演形態は徐々に多様化および多国籍化しつつある。また、ジャズとの境界線上にいる音楽家、例えば中島ノブユキ(piano)とワルシャワ・フィル(Jane Birkin『Birkin / Gainsbourg: Le Symphonique』)や、ASUNA(synth, electronics)と現代音楽ユニットKwadrofonikの打楽器二人Miłosz Pękala & Magdalena Kordylasińska(『Modular』)といった共演レコーディング例も存在する。
アルバムやレコーディングの形になっていないものも含めると、ここで挙げた両国ミュージシャンたちのコラボレーションは全体の中のほんの一部に過ぎない。遠く離れた二つの国のジャズは、私たちが想像する以上に深く豊かにつながっている。
筆者:Yoshinori Shirao a.k.a. Horacio
オラシオ(白尾嘉規)
2019年9月
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